人間のクズ!

敵は自分の中にいる。ちょっとだけ抗ってみたくなった、ぽ子56歳。

さらば、チンカス ~娘ぶー子に捧ぐ~

仕事が終わって家に帰るととっぷりと日が暮れていたが、娘ぶー子はまだ寝ていた。

彼女が家に帰ってきたのは朝である。

昼夜逆転どころか、遊び溜め・寝溜めの極限である。

夜9時の晩御飯でやっと起きてきたが、ちゃんぽんと大皿の生姜焼きをペロリと平らげた。

元気じゃないか。

私はちょっと安心する。

そんな時、ぶー子の携帯がブルルと震え、彼女は「ギャッ」と小さな悲鳴を上げた。

「リュウちゃんだ。」

別れを予感しながら二週間。

彼からの連絡はなく、ただ待ち続けていたぶー子である。

やがて決心したように立ち上がり、身支度を始めた。

「フラれに行ってきます☆」

尻のポケットから、タバコが見えた。

リュウちゃんはタバコが嫌いなので、これまで隠れて吸っていたのだ。

最後に一服かましてやれ、と冗談で言ったのだが、ここにぶー子の覚悟が見えた気がした。

「やっぱりダメでしたぁ~!!」と帰ってきたのは、30分ほど経ってからであった。

「チンカス、言ったの??」

親としてはリュウちゃんに納得いかない部分が多いのだ。せめてチンカスぐらい食らわせて欲しいものだ。

しかしぶー子は笑いながら、「うんー、結局自分らしく別れてきたよ。じゃあお互いにこれからも頑張ろうね、って円満に。」

私は、くわえタバコで「このチンカスが!」と言わせるのが最高のフィナーレだと思っていた自分を恥じた。

まるで、試合に負けた選手のように清々しく振舞っているぶー子の強さが眩しい。

「大丈夫?」と声を掛けるとやっと気弱そうに「・・・多分ね。」とだけ言ったが、大丈夫な訳がない。

しかし、こればかりは仕方がないのだ。

時間をかけて、自分で乗り越えるしかない。

ただ、私は言いたい。

これは「終わり」ではないのだ。

これはぶー子の人生のほんの小さな一部でしかない。

別れが来たという事は、本物ではなかったのである。

今は辛くて「本物だ」と思い込もうとしているだろうが、いつかしかるべき人に出会ったときに、それは分かるはずだ。

何でこんな辛い思いをしなきゃならないのかは分からないが、その必要があるからこういう運命になっているはずである。

無駄ではない。

むしろ、必要な別れだったのだと思う。

多くの人が味わうこの地獄のような時間は、あんたの母も経験している。

友達にも聞いてみるといい。

「あの時はね・・・。」と今は笑顔で話してくれるだろう。

必ず時間が解決してくれる。

それを早めるか遅らせるかは自分次第だ。

私は今、あの頃を懐かしく思い出すことさえできる。

誰もが経験する、予防接種のようなものだ。

バンジージャンプ。

奇跡の生還。

良く頑張った、と自分を褒めてあげるといい。

そんな自分が誇らしく思える日が、必ず来るから。