ついにその時は来た。
私は観念してそれをやっと開いたのである。
半額のシールの貼られた豚のバラ肉を買ったのは、木曜日の事である。
600gはあろうブロック肉である。
私もダンナも娘ぶー子も、脂タップリのバラ肉は大好きである。
しかしその日の晩御飯はもう午前中のうちに作ってあり、翌日の金曜日は歯医者だったので帰りにラーメンを食べて帰る予定だった。
半額に値下げした肉をそんなにほったらかして大丈夫かという懸念はあったが、いかんせん目の前のエサに弱いぽ子である。
深いことは考えずに買ってしまった。
金曜日の朝になり、これは結構やっかいなものを買ってしまったのかも、と不安になってきた。
週末に調理をする事などほとんどないし、週明けの月曜などもっと可能性は低くなる。
困った。
冷凍という手もあったが、過去の実績から、冷凍して安心して忘れ果て、結局捨てる羽目になることの方が圧倒的に多いことが分かっていた。
となると、これはもう調理しかない。
しかし、その金曜日は歯医者を控えていたので午前出勤であった。
あぁまた捨てるのか・・・、と頭を抱えていたら、あるレシピを思い出した。
ただのポトフだが、それは肉に塩をして数日おいてから食べるのである。
塩をして数日。
おお、数日の猶予ができるではないか。
またも目先の解決策に食いついて、私は肝心な部分を忘れていた。
賞味期限である。
半額で買ったのだ、恐らく賞味期限は木曜日、良くても金曜日だろう。
そこをさらに数日延ばすのである。
一体何日オーバーするのだろうか?
私は肉に塩をたっぷり振って、レシピにあったように香味野菜で包むようにして冷蔵庫のチルドルームに密閉して入れた。
それで安心して週末は忘れ、昨日、野菜を足して食べようと思っていたのだが、そう、昨日はついラーメンを食べに行ってしまった。
現実が押し寄せてきたのは、今日である。
半額で買ってから、5日が経っていた。
今日の夜食べるのなら、午前中に調理して仕事に行く事になる。
ポトフなら肉だけ煮込んで出かける感じだろう。
肉・・・、どうなっただろうか。
晩御飯の支度はいつも11時に着手しているが、今日はなかなか手をつけることができなかった。
見るのが怖い。
私は無駄に流しを洗ったりゴミを片付けたりして先延ばしにしたが、出勤時間は近づいてくる。
腹を決めた。
ジップロックの袋から、肉を出す。
肉には野菜の色が移り、見た目では痛んでいるかどうかは分からない。
臭いを嗅いでみたが、香味野菜の匂いが強いので肉の状態までは知ることはできなかっった。
包丁を入れる。
うーん・・・、決してフレッシュな色ではないが、この程度なら腐らせのぽ子、何度も食べている色でもある。
そもそも「塩蔵」という言葉があるくらいである。
干物だって塩の力を借りて生き長らえているのだろう。
だいたいレシピにも「3、4日そのまま保存して」とあったのだ。
普通に買ったって賞味期限はオーバーする日数である。
これはGOだ。
私は行くぞ。
友人からもらった「真空保温調理器シャトルシェフ」という鍋に肉を入れ、仕事に行っている間、保温の力で煮込んだ。
仕事から帰るとすっかり柔らかく煮えているはずだが、ここで作り手の責任として、肉を試食するべきであろう。
蓋を開ける。
変な臭いなどはしていない。
むしろ、空腹のぽ子には旨そうである。
ためらわずに肉片を一つ、口に放り込んだ。
う、
こりゃ、腐る前のギリギリの熟した旨みか、いける!!
塩だ。
困ったら塩である。
私は早速もうひとつの困りものを、塩と醤油に漬け込んだ。
しかし本格的は結果が出るのは、まだ数時間先である。
あの味なら腹ぐらい壊してもいいと思っているが。