人間のクズ!

敵は自分の中にいる。ちょっとだけ抗ってみたくなった、ぽ子55歳。

ダンスダンスバンドバンドダンス

6時起きである。

娘ぶー子の文化祭だ。ついにこの日が来た。

ああもう、早く終わってしまえ。

ぶー子は死にそうである。

ぶー子はクラスの出し物のカレー屋台の準備の他、クラスTシャツのデザイン、ダンス部でふたつ、バンド部でふたつ掛け持ちの上、後夜祭のダンス、と行きがかり上たくさん掛け持つ結果になってしまい、多忙を極めていた。

夏休みから練習はあったが、学校が始まるとさらに忙しくなり、学校が終わるとクラスの準備、ダンスの練習、別の日にはバンドの練習。

連日帰りは夜遅く、ここ2日は夜中の2時を回っていた。

「・・・疲れた」という非常にそっけないメールが来たのは昨日だ。

学校から帰り、ダンスの練習までの短い時間によこしてきたと思われる。

ぶー子はこういった事に頑張れる人間ではない。

時間があれば寝ていたいし、頑張って充実するより、家でグータラ過ごす方を望んでいる。

そう、ぽ子と同じなのだ、心境は手に取るようにわかる。

遅れていってもいいから、少し休んで行ったら?と返信したが、結局普通に出掛けて行ったようである。

気の毒なので、歯医者の帰りに大きなケーキを買って帰ったが、やはり食べる時間がなかった。

昨日は2時に家に着くなりソファに倒れ込み、ピクリとも動かなくなった。

結局ケーキはまだ冷蔵庫に入っている。

そして今日は6時起きである。

寝たことで少し元気になって出掛けて行ったが、さて、困った事になっている。

ぶー子の出番の時間がサッパリわからないのだ。

ダンスは二日とも同じものをやると言うので今日は逃してもいいが、バンドは今日と明日で1バンドずつだ。

時間はわからない、そう言ったきりで、その後連絡はとれなくなった。

いつもこれだ。

いつ?わからない。

どこ?わからない。

携帯電話が普及して、物事をあらかじめきちんと決めなくても、リアルタイムに何とかなってしまうのが原因じゃないかと真剣に考えるぽ子である。

辛うじて「ダンス部よりは遅い」、「午後」というヒントだけもらい、まるでRPGの謎解きのような状態で午後、学校に向かった。

音楽室に行くと、OPEN*14:00、START*14:15と紙が貼ってあった。

なんだ、ここまで来ればわかるじゃないか。

しかし、出演バンドの順番は、寸前までわからなかった。

今の高校生はこれでも成り立っているらしい。

2時間、立ち見した。

超疲れた。

ぶー子は4つあるバンドのうち、3つ目に出たのだが、たったの2曲だ。

初心者はどうみてもぶー子だけで、中にはものすごく上手い子もいたのでハラハラしたが、なんとか普通にやり遂げてくれた。

ぶー子の前に出たバンドのベースの男の子は、一見、すごく上手いかすごく下手か、という感じのヴィジュアルであった。

地味な見た目にポッチャリした体格、顔立ちは悪くないのに、シャレっ気がない。

「どっちかねぇ。」とダンナと言いながら、彼のセッティングを見ていたら、一瞬「ボッペン」というチョッパーが聞こえた。

チョッパーは1日にして鳴らず

「上手い方なのか!?」

その後彼は、ボペペペと凄い速さで指慣らしをしたので、どうやら決定した。

しかし・・・。

「何かオレ、気に入らないかも。」ダンナはニヤッと笑った。

いかにもうまそうでしょ、っぽい余裕が鼻につくらしいのだ。

楽器屋で気持ち良さそうに試し弾きしている輩と共通点がありそうだ。

そしてこの彼が、1曲弾いたらベースを持ち替えたので、ダンナの彼への好感度はさらに下がった。

「ベース替える意味はあるんだろうな!!」

なかった。

同じような音である。

いや、でも、勝手な思い込みは危険である。

「意外と話しかけたら声が高くてどもってるかもよ?」

「捨て猫5匹、拾って飼ってるかもよ?」

彼を救うつもりが、

「でもベースも5本持ってたりして。」と言って帳消しにしてしまった。

まぁ上手いんだから仕方ない。

これで下手ならおととい来やがれだが、と言うか、別に彼は何をした訳でもない。

上手いヤツは妬まれる運命にあるのだ。

ぶー子から電話が来た。

今日の出番が終わって帰り道なのだが、具合が悪くてもう倒れそうだ、と。

そうなのだった、ぶー子は頑張ると体を壊すのだ。

もう飲んでしまっていたので歩いてそこまで迎えに行ったが、1時間休んだら今日の練習である。

明日の後夜祭のダンスがまだ未完成らしいのだ。

過労死寸前の息子を持つ母親の気持ちが少しわかった気がする。

もういいじゃないか。いなきゃいないで何とかするんだから。

しかし、ハウスの振り付けをできる人間が自分しかいない、と言って譲らない。

今夜も遅くなるのだろう。

具合が悪いのでケーキは食べなかった。

結局大きなケーキはまだ冷蔵庫に入っている。