人間のクズ!

敵は自分の中にいる。ちょっとだけ抗ってみたくなった、ぽ子55歳。

バレンタイン牛

性懲りもなく、エルを連れて寝たのが間違いだった。

やはり夜はエルが体を舐めるのが気になって、寝付けなかった。

朝は朝で、目覚ましが鳴る前からエルがギャオギャオと絶叫を始めたので、目が覚めてしまった。

これまではエルが鳴くと、どんなに眠くてもいちいち「は~い。」と返事をしていたが、あまりのうるささに遂に無視だ。

どれほどの異常な事態か、分かって頂けるだろう。

エルよ、どうしたらいつものエルに戻ってくれるのか。

そんな感じだったので、ひどい寝坊はしなかったが、超不機嫌であった。

何度も書いているが、寝不足という事態そのものよりも、寝れなかったという気持ちがストレスなのだ。

実際起きてみればそれ程眠くないのだが、寝れなかったと思うととても不愉快なのだ。

しかしもっと不愉快なのは、そんな私と顔を突き合わさなくてはならない人であろう。

何を言っても不機嫌そうな私に、そのうちダンナは話しかけなくなり、

「行って来ます。」と目も見ずに出掛けて行った。

ダンナが出掛けると着替えに寝室に戻ったのだが、布団が気持ち良さそうだ。

ぶー子が起きるまで10分しかないが、もう温まるだけでもいいや、と布団に入ってしまった。

それが思ったより気持ち良かったので10分後に起きる自信がなくなり、目覚ましを10分後に合わせて目を閉じた。

たったの10分だ。

どうせ眠れやしないと思っていたが、目覚ましが鳴ったその時、私は夢を見ていた。

もの凄いデカいリーゼントでサングラスをかけたガクランの男が、「ここまでやらなきゃツッパリじゃねぇ!」と言い放っていた。

夢の世界では、こんな男もこんなセリフも、違和感がないから凄い。

さて。寝不足である。

前の晩もなかなか寝付けなかったから、蓄積されている。

寝るか。寝ないか。

さっきも書いたが、眠くはないのだ。

でも明らかに寝不足だ。

寝たい。

しかし皆様ご存知のように、今日は愛のバレンタインデー♪である。

ぽ子はディナーのメニューを必死に考え、材料も昨日のうちに買っておいた。

もう今日の家事はこれ1本に絞るぐらいのつもりだったのだが、寝てしまったらディナーが作れなくなる。

だからぽ子は耐えたのである。

「耐えた」と言っても、何度も言うように別に眠くはなかったのだが。

今日はバレンタインなので、ゲームの時間も返上して、ディナーとスイーツを作る。

その中にローストビーフがあるのだが、昨日の買い出しの時には、牛肉のブロックがなかったのだ。

1軒目の小さなスーパーで見あたらなくて、2軒目の大型スーパーでは聞いたのだ。

「あぁ、もうなくなっちゃいました。」と言われ、他に必要な材料をすでに買ってしまったので何としても欲しかった私は、「明日ならありますか?」と聞いたのだが、明日なならあるとのこと。

クソめんどっちーが、明日、つまり今日の朝、また買いに行ったのだ。

嫌な予感はしたが、牛肉のブロックはなかった。

この時点で私はかなり腹を立てた。

もう他の材料は、買っただけではなく、牛肉待ち状態まで調理をしてあるのだ。

何としてでも連れて帰らねば。

しかしまだ、開店したばかりだから出ていないだけなのかもしれない。

私は他に買うべき物を先にカゴに入れて、再び肉売り場に来た。

しかし先程と変わらず、見当たらない。

くっそー、昨日「明日はある」と言ったクソめがね男め。色白でこすいヤツだ。

私はこう言う時、思いのまま文句を言えたらさぞ気持ちが良いだろうと思うのだが、悲しい事に小心者である。

心の中でシミューレーションまでしておきながら、「はい?」と笑顔で答えてくれたたまたまそこにいた店員さんに、つい私も笑顔で牛ブロックがあるかと聞いてしまった。

彼女は丁寧に返事をしてから「ちょっとお待ち下さい。」と奥に消えた。

ないんだろうな。どうせないんだろうな。

このまま「そうですか」と引っ込むのは何だかシャクだ。

しかし何と言えばいいのだ、あの丁寧な対応の奥様店員に。

くっそー、昨日のメガネ、出て来いッ。

「お待たせしました。・・・で?」と言って戻ってきたのは、果たして昨日のメガネであった。

はぁ?「で?」って!?

何から言ってやろうと思ったら、「で、何グラムでしょうか?」と彼は聞いてきた。

あるの!?

「国産ですか?」と聞かれたが、その意図するところがわからない。

国産じゃなかったら輸入ってことか。

何なんだその違いは。どっちでもいい、じゃ、その国産ってやつで、と言いそうになってやっと気がついた。

「国産、いくらですか!?」

まぁおよそ私などが買う値段でなかったから、オージーを600g頼んだ。

しかし、料理本には500と書いてあったような気もするのだが、どちらか思い出せなかったので600と言ったのだ。

それから数分待ち、肉を切った彼は、「700g位でもいいですか?」と聞いてきた。

え~っ!?700もいらないー!!

そんなんだったら500gと言っておけば良かった。

アンタ、わざと大きく切ったんじゃないでしょうね。

・・・などと言えるなら、最初の奥様店員の段階で文句を言っていた。

しかし小心者で八方美人の私は心ならずも「お手数かけてすみません。」と言って、その100gも重くなった肉を受け取った。

正確には126g重いッ。

イヤよイヤよも好きのうち、と言うが、その反対である。

「お手数かけてすみませんお手数かけてすみませんもムカつくのうち」だ。

しかし心ならずもつまらない事を言ってしまった私に彼は、「ちょっと安くしておきました。」と言った。

値段を見ると、100gあたり198円と言っていたところが、128円になっていた。

メガネ~~!!

そうだそうだ、思い出した。

私はそもそもメガネで色白のインテリタイプが好みだった。

ウフフ、あなたも素敵な人ね♪

こうして今夜のローストビーフは完成したので、メガネのダンナの口に無事、入ったのだった。