*お願い*先に前回の記事を読んで下さいな。
その頃もう地球にはとっくに石油はなくなっていた。
人々は石油に代わる資源を求めたが、結局、自分達で作り出すより他はなくなっていた。
燃料も然り。
全て人力で賄われるようになった。
豪華客船「シズマリン(Swizz・Marine)」はその沈みそうな、沈まなさそうなネーミングから人気を博し、今日も大海原を進んでいた。
動力はやはり人力。
死刑が廃止された代わりに、殺人など重い罪を犯したものが終身、漕ぎ続けるのだ。
ところがその日、「シズマリン号」は太平洋の真ん中で漂っていた。
漕ぎ手の犯罪者達がストライキを起こしたのだ。
ワルイコビッチは殺人の罪で捕われたが、実は彼は無罪であった。
幼い頃に両親が、「ゲーセンにもRPGを!!運動」をしたためにさらし首になり(当時はまだ船役制度はなかった)、以来極貧生活を強いられていた。
空腹に耐えかねて隣家に忍び込み、たまたま見つけたメガマックを食べていたところを、その家に住む老婆に見つかってしまった。
老婆は驚いて心臓発作を起こし、ぶっ倒れたところにたまたま包丁が刃を上にして立っており、それがキッチリと心臓を刺して死んでしまったのだが、名前の悪さも災いして、彼は殺人犯として船役につく事になってしまったのだ。
メガマックの下半分は残すつもりでいたのに。
彼は諦めて淡々と毎日船を漕いでいたが、ある日、昼食にハンバーガーが出た。
ハンバーガーと言ってもせんべいにこんにゃくを挟んだだけのものだが、それで彼はあの日の事を思い出し、急にブチ切れたのだ。
「何で無罪の俺が金持ち連中の為に死ぬまで船を漕がなくちゃいけないんだ!!」
彼はもともととても賢い男であったから、あの手この手で同じ船役についている仲間を説得し、脅し、丸め込み、とうとうストライキを決行したのだった。
もう船は丸1日ほど漂っている。
ついに船員達が漕ぎ出した。
このままでは食料が尽きてしまう。
太平洋の真ん中で乗員乗客犯罪者、全員死ぬ運命だ。
花園麗太はその時、この船でたったひとつのスイートルームで寛いでいた。
彼は金持ちの家に生まれ何ひとつ不自由なく育ってきたがべらぼうに頭が悪く、名前の通りにいつも0点ばかりとっていた。
そんな彼も28になりやっと電車に乗れるようになったので、その褒美にこの船に乗せてもらったのだ。
麗太は船の様子がいつもと違う事にやっと気付くと、船員達が船を漕いでいることを知った。
麗太はバカであるが、それゆえ純粋でいいヤツなのだ。
「俺達も漕ぐぞ!!」と客室を1つ1つまわり、ついには乗員乗客がひとつになって交代で船を漕ぎだしたのだ。
皆、笑顔であった。皆、ベートーベンの「歓びの歌」を歌った。
麗太は歌詞を覚えられなかったから、ケツメイシの「さくら」の歌詞で歌った。
盛り上がった麗太は船長に頼み込み、犯罪者達の独房の鍵をもらった。
麗太は船長とも心がひとつになった気がして更に舞い上がったが、単にさっき麗太が食べた餃子のニンニクが強烈に臭くて、早く出て行って欲しかっただけだ。
麗太は独房の鍵を開けてまわった。
ワルイコビッチは船が動き出したことを訝しく思っていたが、じきに麗太がドアを開けに来る。
麗太が笑顔でベートーベンのケツメイシを歌っているのを聞き、全てを悟った。
ワルイコビッチは麗太の手をとり、コサックを踊りながら漕ぎ手に加わった。
ワルイコビッチだけではない。
全ての犯罪者と乗員、乗客がひとつになったのだ。
(BGM:「手をとりあって(Teo Toriatte)」 QUEEN)
皆が全力を出して漕いだので、予定より早く目的地に着くことができた。
その後、バカ麗太が身をもって知った船漕ぎの辛さを世間に訴えたため船役制度がなくなったことを、ワルイコビッチは船上の独房で知ることになる。