「ずいぶん久しぶりですよね~。」先生はカルテを見てそう言った。
私も前に来た日は忘れていたが、「平成13年」と言ったからそりゃ久しぶりだ。
「これはもう埋めるのは無理だねー。かぶせるようになるよ。」と言われたが、「埋める」と「かぶせる」の違いがわからない。
まぁどっちにしろかぶせるしかないんだったらそれでお願いするしかない。
しかし、大きな違いがあるようだ。
前回埋めた時は、欠けた部分の形をチョチョッと整えて埋めて、1回で終わった。
今度は歯をゴッソリ削ってそこにプラスチックの歯をかぶせるらしいのだ。
ゴッソリ削る(泣)
私は「とにかく痛いのはいやなので。」「麻酔をお願いします。」
「それは痛いですか?」「痛そうだったらですね。」と痛み回避に必死だ。
本当にゴッソリ削った。
舌で触った感じでだが、もうフチしか残ってないようだ。
本当の本気で恐ろしかった。
前に寝室のドアが勝手に開いた時も怖かったが、こっちもかなりのもんだ。
「ヒィヤ~~!!」
と何度もパニックを起こしそうになったが、その度エルの事を考えてしのいだ。
ラーメンも効き目がありそうだったが、お腹が鳴りそうだったので考えるのは止めた。
「顔だけ見てると本当に痛そうだね。」と先生。
ハハ・・・。確かにまだ痛くはないのだが、あの音で充分痛い。
もう恥も何もない。獅子舞のような顔になっていたはずだ。
「次の予約は何時だったっけ?」助手の奥さんに聞く。
「11時です。」
間に合うのか?
しかしまだまだ歯は削られる。
「その次は何時だったっけ?」
「11時半です。」
削りながら歯を水で流すのか、口の中が水で一杯だ。
そのうちゴボボと口から流れ出たが、最初こそ「ああっ。」と気にかけてくれたがそのうちタオルを首に当てられ、口から流れるがままになった。
・・・カッチョ悪い(泣)
結局私の仮歯が完成したのは12時であった。
しかも慌てたのか、接着部分がちょいと雑めであった。
まぁこれから何度もつけたり外したりを繰り返すらしいから、構わないが。
そう、何度も。
「最短で6回かな?」
今度は前のように1回でチャッという訳にはいかないらしい。
このあとダンナと待ち合わせてラーメンを食べに行ったが、麻酔が効いていて上手く食べれなかった。
歯の方も、これは自分の歯ではない。
歯を削りまくって仮歯をつけた、という感触だ。
当たり前だが、歯にも神経があったのだ。それを痛感した。
自分の体の一部が、永久に消滅してしまった。
早まったか?
しかし先生曰く歯がしみていたのは虫歯のせいらしいから、いずれこうなる運命だったのだ。
と言うか、詰めた部分が取れた時点でさっさと来ていれば良かったのだ。
グータラ人間でいて、いい事なんてない。
私は週末の酒を優先して、前歯を失ってしまった。
もっとさかのぼると、ペンチを探す手間を惜しんだために歯が欠けてしまったのだ。
粉になって散っていった私の前歯よ、今までありがとう。
ぽ子はかなりへこんでいます・・・。