私は、掌の中で蠢くその小さな生き物を見て、困惑していた。
これはネズミではないのか?
しかしピャ~というその鳴き声は、間違いなく子猫のそれだ。
団地の中で、成猫用の餌とダンボールに入って捨てられていた子猫。獣医師さんの見立てだと、生まれたのは昨日今日だろうとのことだった。
目も開いておらずへその緒もついたまま、その物体はフニャフニャと蠢いていた。
猫と暮らすようになったのは、小学生の頃からだ。この子猫を保護した時にも2匹の姉妹猫が家にいた。
もう猫が家にいるのは当たり前のことで、「飼う」などという特別なことではなかった。ご飯をあげるのも、トイレの掃除も、一緒に寝るのも、世話ではなく日常だ。
しかしこれは大変なことになった。こんなに小さな猫など、育てたことがない。
幸い今はインターネットのお陰でどんな情報もすぐに手に入れることができるが、情報は簡単に入手できても実行が簡単という訳ではなかったのである。
3時間おきの授乳、排泄の介助、体温を下げないように保温に気を使い、体重を測って成長を確かめる。
体重の増加量で一喜一憂し、授乳に一時間かけ、夜中も、早朝も、家族が交代で少しでもミルクを飲ませられるように頑張った。
人間の赤ん坊と、大して変わりはしない。大変で、心配で、愛おしい。
肺炎で何度も死にかかり、1ヶ月半の入院を強いられた子猫は、こう名付けられた。
エル。
Live、Long。
この子ももう、17歳になる。
先住の姉妹猫は、家で看取ることができた。
その辛く悲しい別れを経て、今強く思うこと。
エルをこの手で看取る。
エルを失うことは怖いけれど、エルを幸せなまま送り出すことができるのは、私達家族だけだ。
エルは、甲状腺機能亢進症になってしまった。治らないものだ。進行を遅らせることが、治療となる。
ごく子猫のうちに死ぬ運命にあったこの子がこんなに長く生きてこられたことには、感謝しかない。
だからこそ、逃げずにこの子の最期を受け止める勇気を持ちたい。
最期を受け止める。
それこそが、最上の愛情だと信じている。
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