人間のクズ!

敵は自分の中にいる。ちょっとだけ抗ってみたくなった、ぽ子55歳。

手紙 / 東野圭吾

この本が届いて手に取った時、「しまった!」と思い出したのである。これは映画で観た作品だった。しかも酷評した(笑)

気が重かったが、原作としてまた違う感想になるかもしれない。・・・と読み始めたのだが。

惹き込まれるのに、そう時間はかからなかった。やはり文字には文字の良さがある。むしろ、言葉だからこそ伝わるものがあり、圧倒的にこちらの方が良かったのだ。

映画の方もかなり評価が高かったが、正直私には理解できない。これを読んでしまうとなおさらに。

 

 

両親を亡くし、兄弟ふたりきりで生きてきた直貴と剛志。

生計は兄の剛志ひとりが担っていて、苦しい生活を強いられていた。

それでも剛志は、高校生の直貴をどうしても大学に入れたかったのである。まとまったお金が欲しかった。

学歴のない剛志は体で稼ぐため、引っ越し屋で働いていた。それも腰を痛めて辞めざるを得なかったのだ。直貴にはこんな思いをさせたくない。

その思いは強く、魔が差して強盗殺人を犯してしまう。

 

根は優しい剛志だった。罪は悔いているし、大切な弟をひとり残してきたことが心配でたまらない。

毎月毎月直貴には、剛志からのつたない手紙が届く。

それは思いやりが溢れ、まるで父か、母からのようでもあった。

しかし世間は残酷だ。

直貴は「殺人者の弟」と知れることで、全てが失われていく。

やがて直貴は、失うことにも慣れていく。

毎月届く兄からの手紙。

やがてそれも、読むことはなくなっていった・・・・・・・。

 

何が切ないって、弟を想う兄の気持ちと、兄を恨む弟の気持ちの温度差である。

生き地獄に置かれる直貴に、どこか能天気にも感じられるほど穏やかな剛志の手紙。

直貴への愛情を感じるだけに、それが読まれなくなっていくことに私達は胸を痛める。と同時に、この状況を知らない剛志へのいら立ちも生まれて来る。

この悲劇はやはり、剛志の犯した罪が発端だ。弟への愛情で済まされるものではない。

それが分かった時に直貴の下した決断は、鬼だ。当然剛志は深く傷つくが、ここから剛志の本当の贖罪が始まるのである。

最後に兄弟が再会したその時の、剛志の姿。これこそがこの本が一番伝えたかったものではないだろうか。

切なくて、苦しくて、泣けた。

ほんっとうに、映画の方はなんなんだあれは。

 

ぽ子のオススメ度 ★★★★★

「手紙」 東野圭吾

文春文庫