この本が届いて手に取った時、「しまった!」と思い出したのである。これは映画で観た作品だった。しかも酷評した(笑)
気が重かったが、原作としてまた違う感想になるかもしれない。・・・と読み始めたのだが。
惹き込まれるのに、そう時間はかからなかった。やはり文字には文字の良さがある。むしろ、言葉だからこそ伝わるものがあり、圧倒的にこちらの方が良かったのだ。
映画の方もかなり評価が高かったが、正直私には理解できない。これを読んでしまうとなおさらに。
両親を亡くし、兄弟ふたりきりで生きてきた直貴と剛志。
生計は兄の剛志ひとりが担っていて、苦しい生活を強いられていた。
それでも剛志は、高校生の直貴をどうしても大学に入れたかったのである。まとまったお金が欲しかった。
学歴のない剛志は体で稼ぐため、引っ越し屋で働いていた。それも腰を痛めて辞めざるを得なかったのだ。直貴にはこんな思いをさせたくない。
その思いは強く、魔が差して強盗殺人を犯してしまう。
根は優しい剛志だった。罪は悔いているし、大切な弟をひとり残してきたことが心配でたまらない。
毎月毎月直貴には、剛志からのつたない手紙が届く。
それは思いやりが溢れ、まるで父か、母からのようでもあった。
しかし世間は残酷だ。
直貴は「殺人者の弟」と知れることで、全てが失われていく。
やがて直貴は、失うことにも慣れていく。
毎月届く兄からの手紙。
やがてそれも、読むことはなくなっていった・・・・・・・。
何が切ないって、弟を想う兄の気持ちと、兄を恨む弟の気持ちの温度差である。
生き地獄に置かれる直貴に、どこか能天気にも感じられるほど穏やかな剛志の手紙。
直貴への愛情を感じるだけに、それが読まれなくなっていくことに私達は胸を痛める。と同時に、この状況を知らない剛志へのいら立ちも生まれて来る。
この悲劇はやはり、剛志の犯した罪が発端だ。弟への愛情で済まされるものではない。
それが分かった時に直貴の下した決断は、鬼だ。当然剛志は深く傷つくが、ここから剛志の本当の贖罪が始まるのである。
最後に兄弟が再会したその時の、剛志の姿。これこそがこの本が一番伝えたかったものではないだろうか。
切なくて、苦しくて、泣けた。
ほんっとうに、映画の方はなんなんだあれは。
ぽ子のオススメ度 ★★★★★
「手紙」 東野圭吾
文春文庫