「あ!?あーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!」
私は絶叫した。
しまった。
油断した。
いや、うっかりした。
しかしもう、あとの祭りだ。
悔しい。
本当に悔しい。
こんなに悔しい思いをすることなど、なかなかない。私は「諦める」ことで楽に生きてきたのだ。
しょせん私などこの程度だから。
そう思って私は、たくさんのことを諦め、折り合いをつけて来た。
ところがどうやら、ゲームに関してだけはそうもいかないようである。
やり場のない怒り。それは原因が自分にあるからだ。うっかりした。ゲームにうっかりは、命取りなのである。
そのゲームは、毎週自動的に30人程度のグループ分けがされて、一週間区切りでランキングが発表されるようになっている。
もうランキングなんて気にしないでのんびりやるつもりだったのだが、たまに「あまりやる気のない人ばかりのグループ」というのに入ることがあるのだ。
グループ全体の獲得ポイントの平均値が低いので、そういうグループに入ると努力しなくても上位に上がってしまうのである。
あろうことか、いつも通りにプレイしていたら、勝手に2位になってしまったのだ。
そこで試しに、ちょっといつもより頑張ってみた。1位になってしまった。
こうなるとこの1位の座を明け渡したくなくなるのが、ゲーマーだ。土曜の夜、酔った勢いで夜中じゅうプレイして、ガッツリ2位との差をつけておいた。これで2位が戦意喪失してくれれば、日曜日は遊んですごしても1位になれる。
ランキングの発表は、日曜日の19時。
この日はミッツを連れて高原におでかけであった。私はランキングを睨みながら、犬と浮かれて休日を過ごしていた。
2位は少しばかりポイントを上げてきたが、すかさず私がまた大きく離したからか、そこから動かなくなった。
日もとっぷり暮れ、私達は帰りの高速に乗っていた。ミッツは疲れて私の膝に顎を載せて寝ている。
もうこれで最後のランキングの確認になるかな?アプリを立ち上げると、2位が入れ替わって、これまでずっと下にいた人が追い上げていた。
しかしそれでも私との差は1500ポイント以上あった。残り時間は20分。
シャカリキになってやれば私を抜かすことも可能だろうが、私の方はシャカリキになりたくない。ポイント差が1000になったら私も逃げに入ることにした。
とっぷり日も暮れた高速道路。せんべいが旨い。私はせんべいばかり食べていた。
犬は寝ている。ダンナは疲れたのか、言葉少なに運転している。
そういえば何か大事なことを忘れているような気がした。
時計を見ると、ちょうど7時を過ぎたところだった。
あ、しまったランキング。
焦ったが、正直、まさかな、という思いもあった。
ランキングは結果が出ていた。
3位から発表され、2位に私のアホヅラのアイコンが現れた時のショックよ。
抜かれた。油断した。
畜生、本気の追い上げと気付いていたなら逃げに入ったのに。
何が悔しいって、こいつが油断した私を思ってほくそ笑んでるだろうことだ。こいつ、気持ち良かろうぞ。まじで悔しい。お前なんて、お前なんて、私が本気を出してればお前が今頃悔しがっていたはずだ。
負け犬の遠吠えとはこのことよ。分かっちゃいても、どうにも気持ちのやり場がない。
正直に言うが、私はちょっと泣いた。分かっている、油断した私が悪いのだ。そう思うとどうにもやりきれない。
この悔しさを忘れるまで、どれ程の時間がかかるだろうか。この思いをしばらく引きずることを考えるとウンザリした。
今夜は眠れないだろう。
また明日は寝不足で、ニキータ・イヴァネンコに抜かれた悔しさと対峙しなくてはならないのか。
最悪だ。
しばらくは立ち直れないだろう。
目覚ましが鳴る前に、目が覚めた。昨日はいつもより早く寝たからね。
良く寝た気がする。
ニキータ・イヴァネンコのこともどうでも良くなっていた。
悔しさなんて、こんなものか。人間の自己治癒力は、なかなかのものである。
この調子では、私はまたうっかりするだろう。
今はもう、いつもどおりノンビリと平和な日常だ。