人間のクズ!

敵は自分の中にいる。ちょっとだけ抗ってみたくなった、ぽ子55歳。

The Blue ”SURF” Blues・3

「こんにちは。今日はよろしくお願いします。」

現れた営業さんは、飾り気はないが純朴そうな若い男性だった。

大まかに車の現状を伝えると、いよいよ査定に入る。私は家の中で、それが終わるのを待った。

 

今回対応するにあたり、足元を見られないようある程度作戦は立てておいた。

何しろ相場が全く分からないのである。下手にこちらから数字は出さない方がいい。

まずは相手から査定額を引き出すこと。

そして、こっちはある程度色んなことを知っている、という圧を匂わせる。「その手は通用しないよ」というメッセージだ。

 

「だいたいいくらぐらいをご希望ですか!?」

セオリー通り、最初は他の業者の査定額を知りたがったが、ディーラーの1万と下取り査定の10万は言えん。あなたが最初の一人です、と言うと、彼は本気で頭を抱えてしまった。

そして私の希望額を聞きにかかったが、これも言えん。低くても高くても、結局何も分かってない丸腰がバレてしまう。

「色々調べましたが、具体的にいくら、という風には考えていませんでした。」そんなこと聞かれるとは思わなかった、という風に答えた。

彼は本気で困っていた。

「僕がここで『いくらでした』と言ってしまうと、次の業者さんはそれよりちょっとだけ高い額で買おうとするんですよ。そうなると一番手は単なる踏み台になってしまうわけで・・・・・。」

ごもっとも。

しかしそんなことは私には関係ない話である。私は査定を頼んだのであり、この車にいくらの価値を付けるのかを教えて欲しいだけなのだ。君達がいかに安く買うかの争いは、そちら側の話で関知しない。

「最悪の場合、査定額ではなく買い取り相場だけをお伝えすることになります。」

なんじゃそりゃ、って感じだが、実は私は彼に好感を持った。

予め調べておいた情報に照らし合わせると、彼は正直だった。しつこくもなく、想像していたような悪徳なものは感じなかったのだ。

しばらく待たされ、とうとう彼は言った。「30万でいかがでしょう。」

おお、上がった。

しかしいきなり最高額は出さないだろうから、本当はもっと上がるはずだ。

「えっ、30万・・・ですか・・・?」私はわざとズッコケてみせた。

「あ、だいぶ予想と違いましたかね!?あの、いくらぐらいをご希望ですか!?」

相場が分かれば、ここで希望を通すことも可能だっただろう。しかしまだ一軒目だ。やはり他の査定も見たい。最初と同じように「具体的に考えてない」ともう一度言うと、「いや~~、30か40ぐらいかな、と思ったんですけど、いかんせん修理にいくらぐらいかかるのかが分からないので、こんな感じになっちゃうんですよ。」・・・40出ました。よし、今後40までは固いか、最低でもガリバーで40は行ける可能性が出てきたのではないか。

 

最後に、今回の売却の決定権は誰にあるのか、と聞かれた。

その場で即決したがるという話も、良く聞いていた。ダンナがいなかったのは好都合だった。ダンナと相談して決めることにしています、と言うと、それ以上は押しも引きもせず、帰って行ったのだった。

 

なるほど、こうやって交渉を重ねていけば、相場が分かって来そうだ。

しかし一筋縄ではいかなさそうである。

気は重い。