朝6時出発、7時半には銀座のレストランに着いている予定であった。
ダンナの誕生日祝いだ。しかし実際の誕生日は、前日の金曜日なのである。金曜日。誕生日の金曜日。ちょっとぐらい飲みたいじゃないか、ということで、飲み過ぎない程度に軽く、ということにしたんだが。
「もういっか、明日は。」
「いいよいいよもう。だってクリスマスと被って色々大変でしょ?」
「違う日にやり直そう。もっといい日があるよ。」
飲むほどに自制が効かなくなり、結局セーブしながら飲むのが嫌になった。誕生日祝いは延期、今日はとことん飲もうという運びになってしまったのだ。
寝た時の記憶はないが、朝。時計を見ると、5時半。部屋を出たがって鳴いていたエルを、ダンナが救出に来た。ダンナも起きているということである。体調、良し。これなら予定通り決行できるんじゃないの??
「おはよう。」
「お、早いね。」
「行くよ。」
「え!?行くの!?」
「そう、行くの。」
ダンナは慌てて風呂に向かう。私は準備をする。が。・・・ない。
前夜が思い出されてくる。
スマホがなくなったんだった。
私の記憶では、家に帰ってから使った覚えがある。家の中にあるはずだ。それが、ないのである。
いつからなくなったのかは思い出せない。寝る時に充電しようと思ったら、なかったのだ。それまではあったような気がするんだが。
パソコンから音を鳴らす、という方法があったので試してみるも、どこからも音は聞こえてこない。GPSで場所も特定できるはずなんだが、マップが表示されない。スマホ側の設定ができていないのかもしれない。
スマートウォッチから鳴らす方法もあったが、これも鳴らなかった。
「これはもう、家にはないよ。」ダンナが絶望的なことを言った。
一体どこに・・・。
家で使っていないとなると最後に使ったのはバスだと思われるが、バスに「置き忘れる」とは考えにくい。座って膝に乗せたバッグにしまうはずだ、落とすとも考えにくい。
「じゃあその前となると・・・。」
「サイゼ。」
料理の写真を撮ったのだ、確実に使ってはいるが、果たして忘れるか?テーブルの上にボーンと。
しかし実際に今ここにないのである。そういう可能性を辿っていくより他はない。
スマホがないと、出掛けることができない。あの中のメモに、この日のタイムスケジュールが書いてあったのだ。行き先のマップや情報も、調べることができない。アホらしいが、私はまた地雷プランを組んでいて、ダンナに行き先を知らせていないのである。ダンナも頼れない。
はぁ~、やっぱり延期か。着替えに寝室へと入ると、昨夜寝た時のことがふと頭をよぎった。
ここまで持って来た気がする。ここまではあったはずだ。
布団をめくる。ベッドの向こう側の覗き込む。
ありましたEE:AEB64
どういう訳か、向こう側に転がり込んだらしい。
「あったあった!」ないよりマシだが、バツが悪いことこの上ない。
そして再び時間が動き出す。急いで出発だ。すでに1時間遅れである。
こうして何とか決行となった。
今年の地雷ツアーの始まりであった。