泥酔状態にある時は、全く別人格である。と張本人は言いたくなるものだが。
正確には本人でありながら、ある部分が増長されて別人格に変化しているというところではないだろうか。
タガが外れて、普段理性で抑えているものが湧き出て来るのである。あぁ恐ろしい。
思い出したくもないが、大概そんなに酔った時は記憶に残っていない。
思い出しそうな時は、蓋をしてしまう。
泥酔エキスパートは、決して他人の醜態を思い出させるようなことはしない。暗黙のルールである。
お陰で私の自尊心は、ある程度守られている。
その週末も、良く飲んだ。
頻度を抑えるよう努力はしているが、そのぶん飲める時に飲まなきゃ損、みたいな気持ちになるものだ。
ダンナは先に寝てしまい、私だけしぶとく飲んでいた。
家でひとりで飲んでたので恥のかきようはないんだが。
翌日になり、軽い二日酔いを抱えつつ、一日が始まった。
先に寝たダンナはとうに起きていて、録りためたテレビ番組など見ている。
犬部屋との戸は開け放たれており、私の姿を認めると「ミツコ」が口を開けて笑う。
ヒクッ。
何か嫌な感じが胸をかすめる。
蓋をしようと思ったが、相手が犬だったのでつい油断した。前夜の記憶が甦る。
私はミツコの前に立ちはだかっていた。立ちはだかり、号泣していた。
「どうして!?」「どうしてなの!?」
オペラばりのアクションで、私はミツコに訴えていた。
ミツコが猫の大五郎に酷く吠えたのである。
一緒に暮らすようになってから4ヶ月ほど経つが、まだまだ両者の距離は近づいていかない。
無関心ならまだしも、時々牙を剥いて飛びかかろうとするので怖い。
意外と猫の方は余裕があるようで、大五郎などお腹を見せて敵意がないことをアピールすることもある。
なのに。なのにだ。
どうして。どうしてなの!!
うわ~~、恥ずかしい。泥酔の果ては自作オペラだ。
蓋をして封印。
ミツコには何の効果もなかったようで、舌を出して笑っていた。