私はボーカリストなのだろうか。未だに自分がボーカリストであるという自覚はない。
きっかけは単に、歌いたかっただけ。経験、カラオケ。そんな程度の始まりだ。
それが約10年前。
自分なりに経験を積み、勉強もしたが、ボーカリストを自認することには抵抗がある。
その定義にもよるが、やはりそれなりの技術を伴って初めて明言できるのではないだろうか。
私がボーカリストであるか否かは、他人が決めてくれていい。
先日のライブは、AC/DCであった。
ハードロック、キー激高、個性的な歌い方。
高いハードルだったが、準備期間を長く頂いていたので、万全の状態で挑めたと思う。お陰様で数少ない悔いのないライブとなった。
歌を自分のものにするためには、まず歌詞を覚えなくてはならない。考えなくても口をついて出るような状態にならないと、歌い方や表現にまで手が回らないのである。
歌詞を覚える。これが大前提だ。
英語の歌である。音で覚えようとすると、丸暗記だ。少しでも覚えやすいよう、日本語訳も頭に入れる。これは歌う上での表現にも繋がるから、大事なことだ。悲しい歌を笑顔で歌いたくはない。
この歳にもなると、なかなか覚えるのも大変なのだ。なので「とにかくセットリストを早く決めて欲しい」と無理を言ってしまった。
3ヶ月間、何をしていても歌詞を思い出していた。
反復。
「Back in black」は、ヨーヨー、俺様が来たぜどきやがれ!的なドヤ歌である。
I got nine lives,cats eyes,abusing every one of them and running wild,Yes I'm back!
ラップ調で早口。どの音を捨てるかEE:AEB64
掃除をしながら、皿を洗いながら、歌う。
あるとき私は、手紙を整理していた。さすがに歌いながらは無理だ。読みながら、残すものと処分するものを分けていく。
幾度もの選別を潜り抜け、この日まで残っていた先鋭達だ。どれも捨て難いが、こうして繰り返すことにより、少しずつゼロに近づいていくのである。
父から私の娘へ宛てた手紙があった。内容からすると娘はまだ小学生の低学年か、小さな子供に向けた書き方になっている。
ブタの絵なんか描いてすっかりジジ馬鹿・・・、と読み進めていると、えっ。
毎日反復していた歌詞が頭をよぎる。
I got nine lives!cats eyes!
そういう意味があったんか。
AC/DCと父とがこんな形で繋がって、妙な気持であった。
言葉はひとつである。
爺もロックも選ばない。
さて、ライブは終ってしまったが、また機会があるかもしれないので、せっかく覚えた歌詞は忘れないよう、掃除をしながら反復していきたい。