とある晩の事だった。
休日で、その日もしこたま飲んだ。
外で飲んだ続きか、そもそも家で飲んでいたのかは覚えていない。
いずれにしろ、家で飲めばダンナは先に寝てしまうのだ。
私は夜になると元気になる。酒を飲めばさらにブーストがかかるので、夜更かしには輪がかかる。朝型のダンナは付き合いきれずに寝てしまうのである。
酔っているので、たいがい脳にも体にも負担のかからないYouTubeサーフィンだが、その晩は違った。
何をトチ狂ったか、音楽室でキーボードの練習を始めたのだ。
「酔っても弾ける練習」などと称し、意外と本気だ。
こういう時間は、あっという間である。
ひとり、深夜にストイックに練習に打ち込み、時間を忘れる。
酔っ払って感じなくなるもの。
時間の感覚。
苦痛。
痛み。
酔っ払って得るもの。
幸福感。
なかなかハッピーで有益な練習となった。はずだ(笑)
やがて飽きて来る。
練習など、やってもやっても「十分」などと思えることはないが、「飽き」はそれをいつか上回る。
それをきっかけに鍵盤を離れると、ふと気づく。
エルがいない。
行方が分からないのではなく、ダンナが連れて行ってしまったからだ。
エルは私と寝る方が圧倒的に多いから、こうしてできるだけ休日はダンナに譲るようにしていたのである。
ひとりで寝るのは嫌なのでそういう時は大五郎を連れて行っていたが、とにかく抱くのを凄く嫌がるので私ももう諦めてしまった。
いつかはひとりで寝られるようにならなくてはいけないのだ。
その訓練と思って、最近はひとりで寝る日もでてきたところであった。
・・・・・・・。
酔って起こる変化。感情の高ぶり。×1.5倍の感情。
私はとてつもなく寂しくなった。
ひとりの寝室に行く気になれず、しゃがみ込んで音楽室のメダカをいつまでも眺めていた。
しょんぼりすればするほど、しょんぼりに拍車がかかっていく。
ガックリ。
しょんぼりがガックリに成長したところで、飽きて立ち上がった。
しょんぼりにもガックリにも、飽きが来るのである。
音楽室のドアを開けると、・・・・・・EE:AEB2F
隣のドアからトントンと音がしている。
エルがドアを開けようと飛び跳ねているのである。
チャララララララララ~~~~~EE:AE5BE(BGMスタートEE:AEB30スタイリスティックス「Can't give you anything」)
「グエ~~~EE:AEB68」
この声。
なんであの子はこんなに声が汚いのでしょうEE:AEB64それがなお、愛おしい。
あんな声で私を求めてこんな時間に、鳴いているのである。
隣のドアを開けるとエルは、弾丸のように飛び出してきた。
よしよしいい子だ、本当は私が良かったのよね、優越感EE:AEAAB
これは、ただ一緒に連れて行くより、×2の喜びがある。
酔っているので喜びはさらに1.5倍だ。
こうして3.5倍の喜びを胸に、エルと眠った。
朝起きてダンナはガッカリするだろうが、酔ってなければ×1、それ以上でも以下でもないのだ。
安心してがっかりさせておく。
オヤスミナサイEE:AEAC4