人間のクズ!

敵は自分の中にいる。ちょっとだけ抗ってみたくなった、ぽ子55歳。

信じる力

ここの住民の肥満率は、極めて高い。

そして私も例外ではなく、でっぷりと太っていた。

誰もこれで良しとしている訳ではない。痩せる方法がないのである。

皆痩せたいと願っていはいても、どうせ周りも太っているのだ、「仕方がない」という言葉で自分を甘やかして過ごしていた。

私の夫もやはり、太っていた。

彼はもはや痩せたいなどと願いもしなくなったようで、肉、魚、野菜、見境いなく、飽食の限りを尽くしていた。

そんな彼が、寝る前にトマトを好んで食べるようになったのだ。

気まぐれで庭で作り始めたトマトが思いのほか豊作で、その消費にてんてこまいしていたのである。

肉汁したたるステーキにジョッキのビール、そのあとにラーメンまで食べていても、寝る前には必ずトマト。

丸ごと3個を切らずにそのままかぶりつき、深いゲップをして一日の「食」の終わりを告げるのが常となった。

私がその緩やかな変化に気づいたのは、彼がトマトを食べるようになって1ヶ月も経った頃だっただろうか。

そしてそれは2ヵ月後には、確かなものになっていた。

夫は痩せた。

確実に、痩せてきている。

「トマトには痩せる成分が入っているに違いない」と考えた彼は、まずここの住民たちにそれを力説した。

ところが誰もそれを取り合わない。

それどころか「あいつはトマトばかり食べて頭がおかしくなった」、「トマトを食べるのは危険だ」という噂が流れ、とうとう私達は孤立してしまったのだった。

ある日、夫は背中にたくさんのトマトを背負って、旅立っていった。

「僕はトマトの力を信じる。世界には肥満に悩まされている人が数多くいるはずだ。僕は彼らを救いたい。そしてぽ子よ、お前はここに残り、今からでもトマトを食べ続け、必ず結果を出してみんなにトマトの力を証明してくれ。ひとりでも多くの肥満を救うのだ。」

トマトで痩せる・・・、そんな馬鹿馬鹿しい話も、私は目の前でその効果を目の当たりにしているのだ。私は信じた。

私はトマトを、夫を信じて、トマトを食べ始めたのであった。

ところが私の体重には全く変化はなかった。

住民たちは笑った。またトマトで馬鹿になった。

ほらご覧よ、ぽ子はまだトマトを食べている。トマトで痩せると信じてるのだ、滑稽ではないか。

悔しかった。

でもここで止めてしまったら、トマトに効果がないのを認めることになってしまう。

いいえ!トマトには必ず痩せる効果があるのよ!!夫がここに帰る頃、私は昔のようにスリムになっているはず。

そして、痩せた住民がみんなで夫を拍手で迎えるはず・・・。

ところで。

私の体重は、またしても史上最重を更新してしまったのだ。

もう前から見ても、太っているのが分かる。

それでも乗りかかった船だ、今のところ全く効果はないが、トマトジュースダイエットを続けている。

もうね、ホント、続けてる自分が滑稽だよ、全く。

ところでダンナは更に痩せた。

何か違う要因があるんじゃないのか??

解せねー。