ここの住民の肥満率は、極めて高い。
そして私も例外ではなく、でっぷりと太っていた。
誰もこれで良しとしている訳ではない。痩せる方法がないのである。
皆痩せたいと願っていはいても、どうせ周りも太っているのだ、「仕方がない」という言葉で自分を甘やかして過ごしていた。
私の夫もやはり、太っていた。
彼はもはや痩せたいなどと願いもしなくなったようで、肉、魚、野菜、見境いなく、飽食の限りを尽くしていた。
そんな彼が、寝る前にトマトを好んで食べるようになったのだ。
気まぐれで庭で作り始めたトマトが思いのほか豊作で、その消費にてんてこまいしていたのである。
肉汁したたるステーキにジョッキのビール、そのあとにラーメンまで食べていても、寝る前には必ずトマト。
丸ごと3個を切らずにそのままかぶりつき、深いゲップをして一日の「食」の終わりを告げるのが常となった。
私がその緩やかな変化に気づいたのは、彼がトマトを食べるようになって1ヶ月も経った頃だっただろうか。
そしてそれは2ヵ月後には、確かなものになっていた。
夫は痩せた。
確実に、痩せてきている。
「トマトには痩せる成分が入っているに違いない」と考えた彼は、まずここの住民たちにそれを力説した。
ところが誰もそれを取り合わない。
それどころか「あいつはトマトばかり食べて頭がおかしくなった」、「トマトを食べるのは危険だ」という噂が流れ、とうとう私達は孤立してしまったのだった。
ある日、夫は背中にたくさんのトマトを背負って、旅立っていった。
「僕はトマトの力を信じる。世界には肥満に悩まされている人が数多くいるはずだ。僕は彼らを救いたい。そしてぽ子よ、お前はここに残り、今からでもトマトを食べ続け、必ず結果を出してみんなにトマトの力を証明してくれ。ひとりでも多くの肥満を救うのだ。」
トマトで痩せる・・・、そんな馬鹿馬鹿しい話も、私は目の前でその効果を目の当たりにしているのだ。私は信じた。
私はトマトを、夫を信じて、トマトを食べ始めたのであった。
ところが私の体重には全く変化はなかった。
住民たちは笑った。またトマトで馬鹿になった。
ほらご覧よ、ぽ子はまだトマトを食べている。トマトで痩せると信じてるのだ、滑稽ではないか。
悔しかった。
でもここで止めてしまったら、トマトに効果がないのを認めることになってしまう。
いいえ!トマトには必ず痩せる効果があるのよ!!夫がここに帰る頃、私は昔のようにスリムになっているはず。
そして、痩せた住民がみんなで夫を拍手で迎えるはず・・・。
ところで。
私の体重は、またしても史上最重を更新してしまったのだ。
もう前から見ても、太っているのが分かる。
それでも乗りかかった船だ、今のところ全く効果はないが、トマトジュースダイエットを続けている。
もうね、ホント、続けてる自分が滑稽だよ、全く。
ところでダンナは更に痩せた。
何か違う要因があるんじゃないのか??
解せねー。