私は物を良く壊す。
たいがいボーッとしているか、結果にまで考えが及ばないからだが、なくす、壊すは日常茶飯事である。
最近壊したのはネックレスだ。
出かけるときにつけると、外すのが億劫なので、しばらくはつけっぱなしである。
両腕を肩より上に回し、見えないつなぎ目を外すなんて労働は、できれば先延ばしにしたい。
革製品の場合は観念するが、風呂に入るときれいになる気がして、一石二鳥である。
ところが風呂上りにバスタオルが金具に引っかかり、ネックレスの方が切れてしまったのである。
子供の頃に大人から貰った、宝物であった。
何十年も経っているはずなのに、その輝きに曇りは全くない。私は勝手にそれを「本物」と呼んでいた。
本物が切れてショックである。
私に言わせれば、装飾品は華奢なのですぐ壊れてしまうのである。
ボタン類もそうだ。すぐに取れる。ファスナー然り。
ついでにいうと、頑丈だが自分自身も良く壊す。原因の分からない怪我など、後を絶たない。
持ち主によって壊れる確率が変わる訳ではないから、人の物も良く壊す。
多いのは、娘ぶー子の持ち物である。
どうも彼女は私の事を「ダサい」と思っているようで、出かける時には気前良く洋服やアクセサリーを貸してくれるのだ。私としても有難いから良く借りるのだが、良く壊す。
もう借りるのは止めようとそのたび思うのだが、ダメもとで頼むとまた気前良く貸してくれるのである。だからまた借りて壊す。
いい加減バツが悪いので、「壊れても諦めがつくもの」に限って借りることにした。
まぁ確率は、相変わらずだ。
先日の誕生日には、家族3人でディナーであった。
この時は、上から下まで隙なく下着までぶー子のものだったのだ。
玄関を出るときには「これを履くが良い」と、ヒールの高いパンプスを勧められる。
これが、サイズがひと回り大きく、歩いてみると踵がパカパカしてとても具合が悪い。
脱げそうなので、つま先に力が入る。親指から小指までを極限まで開き、靴が置いていかれないように必死である。
何度もぶー子の靴と取り替えようと言われたが、どう見ても新品だ。見た事がない。出稼ぎ先で買ったそうだ。
その靴は「ウェッジソール」というタイプで、靴底が安定している。ヒールがピンになっていないので、・・・丈夫そうである。
結局我慢できずに、取り替えてもらったのだ。
3時までカラオケで散々飲んだくれて帰ってきたのだ。目が覚めてまず靴の事が気になったが、見たところ無事である。
タフで歩きやすいウェッジソール、私もひとつ欲しいね。
ところがぶー子は私と顔を合わせるなり、「どうしてくれるの」というような事を言った。
見た目は無傷だ。
しかし、どうやらガムを踏んだらしいEE:AEB64
これまでも私は、故意にも物を壊したことなど一度もない。普通に生きていてこれなのである。
どうしてガムを踏むのは私なのか。
なぜいつも取っ手が取れるのか。
なんですぐに穴が開くのか。私が手にしたタイミングで。
もはやオッチョコチョイなどという枠を超えて、生命の不思議とかそっちの領域のような気がする。
分かりやすく言うと、私を責めないで欲しいのだ。
などと言っても、この靴に足を入れてガムを踏んだのは私だ。ガムを取るのも私以外にいない。
正直に言えば、ガムなんかくっつけといてもいいじゃないか、そのうち平らになる、と思ったが、今後モノを貸してくれなくなると困るので、ネットでガムの取り方を検索した。
どの情報も「冷やせば簡単に取れる」か「油で簡単に溶ける」となっていたが、嘘つき共め、氷に歯ブラシ、サラダオイル、最後は爪楊枝まで出して職人みたいになっていた。
ぶー子はさっき、靴底が油でテカテカのその靴を履いて出かけていった。
神よ、彼女を守りたまえ。