健診であった。
そりゃ別に構わんが、月曜に健診だと、日曜の食事に制限が出ることになる。
具体的には午後8時以降は水とお茶のみ、当日は完全な絶食絶飲だ。
休日だというのに、つまらぬ夜である。
娘ぶー子の豚キムチが、鼻腔をくすぐる。
起きていても何もいい事なんてない。
早々に布団に入る。
朝。
起きたって何もいい事なんてない。早いところ終わらせて、何か食べたい。
いまや望みは、食べることだけである。サンマが食べたい。意外と地味。
結果が出るのは数週間先だ。本日の仕事は結果のためのつまらん行事である。
身長体重視力血圧だけは、その場で分かる。特に問題もなく。
左目の視力が1.5から1.2に下げられたのが惜しい。
マスクをしたまま計ったので、最後の方は曇って見えなかったのである。
視力が良くても自慢にはならないが、ゲーマーとしては有難い能力だ。
しかし老眼で攻略本が読めん。
クライマックスは、胃のレントゲンだ。バリウム。
35歳からの検査なので、10回目である。もう慣れたものだ。
バリウムを飲んだことのない若人に説明すると、胃のレントゲンを撮る前には、ソーダ味の粉末駄菓子とバリウムなるヨーグルト飲料を飲まされるのだ。
なぜかは知らん。10年経ってもさっぱり分からない。分からないがどうでもいい事だ。
大切なのは、検査が終わるまでゲップを出さないということのみである。
最初に飲まされるソーダの仮面を被った発泡剤が、恐らくゲップの元となっているのだろう。少量の水分の後にドロドロのバリウムを飲むと、ガンガンゲップが上がってくるのである。
そのゲップの空泡すらイメージできるほど、特大のゲップが生まれてくるのが分かる。
自然に任せていたら、それは喉を通って口腔内でファンタジック弾けるだろう。あられもない音と共に。
しかしここでゲップをすると、どえらい怒られることになるのだ。
いい大人がゲップで怒られるなんて、情けない限りである。
ところでこのバリウム、空腹にはなかなか美味しい。どっしりと飲み応えもあり、絶食のちょっとしたご褒美である。
できればもう少し時間をかけて味わいたいのだが、毎度一気飲みほどのスピードを要求されるのだ。はやり「検査」であって、「おやつ」ではない。
検査が終わると、歩きながら思いのたけ、たまったゲップを出しまくった。下剤もすぐに飲んでしまった。
終わった。
サンマ買って帰ろう。
絶食あとのサンマは格別であった。猫にねだられたが、一口もあげなかったのだ。
ご飯を2回もおかわりしたら、急に眠くなってきた。
爆睡しないよう、背もたれに寄りかかって目を閉じる。眠い。
完全なる眠りにつく前に、違和感で意識が戻ってきたのだ。
それが何を意味するかはすぐに分かったが、できるなら感知したくなかった。知らんふり。私は眠いのだ。
しかし向こうも容赦ない。先ほど私が呼んだ客だ、無理もない。
それはどんどんとエスカレートし、ほんのぜん動だけだけだったものが、腹痛にまで変化した。観念してトイレに行く。
10年バリウムと下剤を飲んできたが、こんなに効いたのは初めてである。
コツはすぐ飲むことか。
ビックリした。家で良かった。
これにて健診、終了。
あとは結果待ちである。