一週間が経った。
快方に向かっていることは認めるが、全快は遠そうである・・・。
先週の金曜日は、友人のライブの日であった。
風邪もずいぶん良くなり、健康のありがたみに感謝しつつ、週末の開幕だ。
飲むぞ。
飲むぞ。
ハジけるぞ!!
ところで私はライブハウスのある国分寺に向かいながら、唇に違和感を覚えていた。
家にいる時にちょっと爪で引っ掛けたような感じがあったのだが、まるでニキビを引っかいてしまったような痛みがあり、それはそのまま続いてたのだ。
家を出る頃には小さな水ぶくれになっており、気になるので潰すべきかと考えていたのであった。
顔面にデキモノがあるというのは、とてつもなく恥ずかしいものである。
ライブハウスに着くと、聞かれもしないのに「こんなものができてしまって酷いツラです」と自ら言って回った。
恥は笑いにしてしまうという、悲しい習性である。笑ってくれ。我慢されるよりもその方がよっぽどいい。
しかしこんなものは別に面白くも何ともなく、誰も本気で笑わなかったあたりがなお悲しい。
やがてこの水ぶくれは痛んできた。
パンパンに張って熱を持っているのが、下唇で触れる感触で伝わってくる。
悪化しているのだろうか。
トイレに入ると、鏡を覗き込んだ。うっ。
家を出るときにはシワッとした小さな水ぶくれだったものが、水イボとでもいうように、パンパンに水をたたえて膨らんでいる。
キモッEE:AEAC6
それでも私にできたことは、さらに水ぶくれが成長した、と言って笑いを取ることぐらいであった。ウケなかったが。
だってキモいですもんEE:AEB64
こんなものが金曜の夜に唇にできて、大ピンチである。
「見てください、こんなの!!なんかこういうの顔にくっつけてる俳優さんいましたよね!?」
私も必死だ。今度は隣のテーブルの女性に話しかける。
彼女はボーカルはじめちゃんの彼女であった。何度か会ったことはあるが、まともに話をしたことはない。多分。酔っ払って忘れてなければ。
そんな間柄の彼女は、じっくりと話して聞かせてくれた。タイトルは「それはヘルペスです」というお話だ。
「それ、ヘルペスですね。免疫力が下がるとできたりします。本当はお酒も良くないんですよー。」
よどみなく、ヘルペスについてゆっくり教えてくれた。あなたもしや、「ハイ、看護師ですEE:AEACD」おお、後光EE:AEAAB
思うに看護師とは、単なる労働力でも知識でもない。救い主である。
いや、治してはくれなかったが、話し方が何というか、心に寄り添うような暖かみがあるのである。
日ごろ弱った人を助けている賜物だろう。私も助けて。
私はこのあとPに行く予定になっていたのだが、こんな口、恥ずかしくて人に見せられない。
途中でマスクを買う。コンビニの店員は私とマスクを見て何を思っただろうか。
悲劇は続く。
翌朝(嘘です、昼です)起きてみたら、上唇全体がボッテリと腫れ上がってタラコ状になっていた。これほど「タラコ唇」という言葉がマッチする状況はないだろう。アホヅラも手伝って、銀魂のエリザベスに似ていた。
この日は一中バンドのスタジオ練習日であった。
唇が恥なのもあったが、もう痛くてたまらない。
いつもならギリギリまで寝ているが、飛び起きて病院へ直行だ。
2時間待って診察室に入ると、診断は一瞬だ。顔を見るなり先生は、「ヘルペスですね」と言った。
これが初めてかと聞かれたのでそうだと答えると、「あー、これね、繰り返しますよ。」と本当に気の毒そうに言った。
ちょっと、こんな唇、死ぬまで何回も繰り返すんですか。
私は相当ガックリきた。
せめて早く治ってほしい。しかしそれは、一週間経った今も、上唇に貼り付いている。
最初に書いたが、一応快方には向かっている。変化はあった。
水ぶくれはやがてつぶれ、また膨らみ、つぶれ、かさぶたになった。
白かったかさぶたは今は赤黒くなり、唇との境い目が少し緩んできたように感じる。
柔らかく収縮する唇に、ガビガビ硬いかさぶたがくっついているのだ、境い目は食事の度に切れる。
もうヘルペスのかさぶたなのか、切れた部分のかさぶたなのかも分からない。
ただひたすらにキモい。
まるで映画にでも出てくる、謎のウィルスに感染したゾンビのようである。
一刻も早く治す方法を求めて、私はネット情報を読み漁った。
どんなマイナーな世界にも、しっかりコロニーが存在するものである。
2ちゃんねるを見れば明らかだが、声嗄れ、不眠、味覚障害、リッケンバッカー、激辛好き、深夜の怪奇現象・・・。
世の中は「分かち合いたい人」で溢れているのだ。そしてインターネットが彼らを結びつけ、コロニーを形成する。
ヘルペス持ちのスレッドもすぐに見つけることができ、そしてこれは絶望的なほど治りにくく繰り返しやすい病気であることが分かった。
それによると症状が治まるまで約2週間。
一度発症すると体内にウィルスが棲みつくため、弱ると発症を繰り返すということだ。
完治しない病気なら、世の中のヘルペス人口は増え続けているはずなのに、私はこんな唇を見たことがない。
不幸だ。
こんな時私は、自分が不幸だと思う。
一中のリハでは、マスク装着で酒を飲んだ。