避妊手術を受けない事には納得していたが、状況が変われば考え直さなくてはならない。
今、エルを診てもらっている病院は2ヶ所ある。
ワクチンを受けたり、良くある症状だったりした場合は近所のかかりつけ、エルのような障害があることを考慮しなくちゃならなさそうな場合はベテランの西川口。
現在では子供を産ませる予定のない猫には避妊・去勢が当たり前になっている。
私もそういう認識でいたからそれなりに成長した頃に西川口に頼もうと思ったのだが、先生は反対した。
エルの障害によるリスクもあるが、そもそも彼は人間の都合で避妊・去勢をするのには反対だという考えであった。
特に不都合がないのならそのままでいいだろう、というので、そのまま今日まで来たのだが。
特に不都合はない。
しかし全くない訳ではなかった。
鳴かれてうるさいのはいい。
エルは「絶対に手に入らないもの」を求めてひたすら鳴くのだ。辛い。
一生これを繰り返してストレスはないのだろうか?
そこへハゲができた。
今年で2度目だが、原因はまだわからない。
先日行った大学病院の問題行動科の先生は、「あちこちにオシッコをしてしまう」「乳腺が張ってしまう」というのはストレスが大きくかかっている可能性があるので、それを繰り返していくのはどんなものなのか・・・とやんわり手術の可能性をほのめかした。
ただ、ハゲとの因果関係はわからないので、あくまでも「避妊をしていないエル」の「現在の状態」を聞いての話である。
それから私もネットで散々調べたのだが、今や避妊は当たり前で、した方がいいどころがしましょう、という風潮で、手術をしないデメリットの方が多く感じられた。
ストレスで寿命が縮まる、なんていう説もあり、私は怖くなって西川口に相談に行ったのだった。
しかし、先生の意見は変わらない。
もちろん必要ならばやりますが、エルのように障害があるのに命をかけてまでする必要があるとは思えない、そう言った。
私だって普通の猫よりもリスクが高くなるなら、現在のエルの状態と天秤にかけるつもりで相談に行ったのだ。
私には医学的知識はない。
そして今のエルの状態が手術に耐えられるかどうかは、検査をしてみないとわからないのだ。
まず順序から検査だろうと思ったのだが、彼は手術の必要性を感じないと言う。
「鳴くから可哀想、おしっこするからストレスかというと、果たしてそうかは私たちが勝手に決め付けているだけで、動物の自然な行動なんです。」
確かにそうだが、ストレスがないというのも決め付けにはならないのか?
私はエルにとって一番良い方法を選びたいと思っている。
手術のリスクが低いなら普通の猫のように手術をして楽にさせてあげたい、あわよくばハゲもストレスが軽減されてなくなればいいと思った。
しかしその手前でストップがかかったのだ。
正直納得はいってないが、どの方法をとってもリスクがあり納得はしないだろうということはわかったので、すごすご引っ込んできた。
ただ先生は、エルには特別な思い入れがあるので、と言った。
エルの体の事なら良く分かっている。僕はエルに麻酔をかけたくないんです。
手術をして必ず何かが好転するというのならわかりますが、逆に手術がストレスになって性格が全く変わってしまう仔もいるんです。
ましてや死んじゃったりしたら大変です。
エルの事は今でも良く覚えています。特別な思い入れがあってこんな言い方になっちゃいますが。
先生なりのエルに一番良い方法が、手術をしない事なのである。
私は誰よりも先生を信頼してきた。
「何かあったら最善を尽くします。」
先生は今日もそう言ってくれた。
一応検査をしたいというならするが、結果がどんな状態であっても先の大学病院にその結果を持ってもう一度相談して欲しいとの事だった。
多分エルの体についてはちゃんと分かっていないだろうから、そのへんを踏まえた上でも手術は必要か聞き、それでも必要であるというなら、私たち(ぽ子たち)の覚悟次第で話を進めますとまで言ってくれたが、先生の本心はそこにはないだろう。
結果と言うものは、時間が経たないと出て来ないものもある。
そして、結果が出てからでは手遅れのものもあるが、これは多分そのケースだ。
なので結果への決断は慎重に行わなくてはならないが、何分にも医学的知識がないのであの先生この先生の言う事にいちいち納得し、考え直し、正直もうどうしたらいいのかわからない。
どれを選んでも納得いかないのだから、「命」を最優先にしてくれた、エルに思い入れのあるベテラン先生の言葉に従う事になるだろう。
それにしても、なんで世の中はこんなに避妊去勢を勧める風潮にあるのだろうか?
西川口の先生のような考えを持つ先生はいないのか。
それも不安のひとつでもあるのだが、そんな事をひとつずつ悩んでいてはきりがない。
手術をするなら西川口以外には考えられないので、もう心を決めなくてはならない。