人間のクズ!

敵は自分の中にいる。ちょっとだけ抗ってみたくなった、ぽ子56歳。

サプライズ

歯医者が終ると、ダンナとの待ち合わせである。

吉祥寺でラーメンを食べる予定だったのだが、昨日は娘ぶー子が泊まりに行っていなかったのだ。

夜遊びのチャンスである。

地元・久米川で飲む事にした。

なので待ち合わせは久米川である。

ちょうど歯医者を出たあたりで、ダンナも仕事が終って会社を出たとメールが来ていた。

ぽ子→西荻窪。

ダンナ→虎ノ門。

待ち合わせは久米川だ。

きっと私の方が先に着いてしまうだろう。

と言うことに歩きながら気付いたので、すこし西荻で時間をつぶす事にした。

遠回りになったが、「陳さんの麻婆豆腐」を売ってるスーパーへ。

これでだいたいバランスが取れたんじゃないか?

ぽ子はゆっくりめにバス停に向かう。

途中にある商店街のアーケードを通って行った。

人もまばらな地味な商店街である。

洋服屋の売り物がたくさんハンガーにかかっていたが、パッとしない服ばかりである。

興味はなかったが、時間つぶしも兼ねて見てみた。

すると可愛いスカート発見。

茶色いチェックのふわふわスカートだ。

しかしペナンペナン。

私が値段を付けるとしたら500円で充分だ。

それが2000円。

ケッ。

でもとても可愛いのだ。

見た目に対しては高いが、世の中のスカートの相場からいえば安い。

迷った。

ぽ子はスカートが欲しかったのだ。

しかし問題がもうひとつあった。

ダンナがミニスカートを嫌がるのだ。

「俺のぽ子の足を誰にも見せるな」と言うのではない。

ぽ子は足のしまりが悪くだらしがないので、許可が下りないのだ。

で、このスカートはどうだ?

ギリギリ膝上である。

これはミニと言わないだろうが、そういったモノサシは人それぞれである。

案外こんなんでも「短い」と言いかねないぞ、ダンナは。

あるジャンルに関して時々、驚く程封建的な時があるのだ。

結局買わなかった。

だいたいスカートと言うものは、太って見えるのだ。

そこを本当に太っている人間がはくのだから、ごまかしがきかない。

ダンナも嫌な顔をするかもしれないし、2000円では高い。

私はバス停に向かって再び歩き出した。

バス停手前のスクランブル交差点で、信号が青に変わるのを待っていたが、目の前には上石神井行きのバスがすでに来て停まっていた。

ちょうどいいタイミングだが、スクランブル交差点は待ち時間が長い。

バス、行くな、行くなよ・・・。

私は祈るように見ていたが、その時頭の中で何かが切り替わり、バスに背中を向けて歩き出した。

戻ったのだ、先程のスカートの元へ。

私は今度は迷わずにそれを手に取り、レジへ向かった。

売り主は年配の女性であった。

地味な店である。

結局、いいんだか悪いんだかわからない2000円のスカートを買ってバス停に戻ると、バスはいなくなっていた。

仕方なくバス停の先頭に並んだが、今度は同じ店にあった1000円のオーバーオールが気になってきた。

バスが来るまではまだまだ時間があるだろう。

でももう1回あそこに行って、今度は1000円の服を買うなんて恥ずかしいなぁ。

諦めた。

しかしその大きな理由は、2000円と1000円を足すと3000円だったからである。

一度に3000円分も服を買うなんて、地獄に落ちてしまう。

じゃなくてもあんなヒラヒラのスカートを穿いたら、地獄に落とされるのではないか?

早速後悔し始めたが、もう遅い。

バスに乗ったところでダンナが新宿に着いたとメールをよこした。

これならちょうどいい感じにふたりとも久米川に着きそうだ。

そして、ダンナは拝島行きの急行に乗った。

私が上石神井に着くと、拝島行きの急行が来た。

何と、同じ電車である。

面白いので私はそれを黙っていた。

小平で乗り換えるときに見つけ出して驚かそう。

「今どこ?俺は上石神井を出たところ。」

ぽ子もここ。上石神井を出たところ。と心の中で言い、メールの返事は「まだバス」と送っておいた。

すると次の田無に着く寸前に、「じゃあ田無で降りて待ってるから、電車に乗ったら何行きに乗ったか教えてね」とメールが来た。

ちょ、ちょっと待ったッ!!降りんでいい!!ぽ子、ここにいる!!

「降りないで!!ごめん、一緒の電車にいる!!」と急いでメールを返したが、間に合ったのかどうか。

電車は田無に着いたが、私はどっちにいたらいいのか?

メールが間に合って降りなかった方に賭けた。

電車が動き出す。

「もう降りちゃった・・・。遅かったよ・・・。」

すぐにダンナからメールが来た。お別れである。

今度は次の駅で私が降りて、ダンナを待った。

こんな事ばかりである。

サプライズを狙って迷惑をかけるのは、ぽ子の特技と言ってもいい。

機転の利かない人間は、余計な思いつきに従わない方がいいのだ。

久米川では、大好きな「わたみん家」で飲んだ。

結局ふたりでボトルを空けるまで飲んでしまい、家での二次会はなかった。

そんな夜だった。

スカートはまだ丸めて袋に入ったままである。

我らが久米川の駅前。精一杯のクリスマス。