「じゃあちょっと、マイク通してみましょうか。」
ボーカル教室のアカペラクラスに入っている。月に一度のレッスンにて。
合唱もゴスペルも基本的にマイクを使うことはなかったが、どうやらアカペラではマイクを使うことになるらしい。
マイクは人の声を最大限に拾おうとするが、上手く使えば助けにもなる。
3人の生徒はマイクを握った。マイクを通すことにみんな、ちょっと緊張する。
モニターは上の方にあり、みんなの声が良く聞こえてとても良かった。ところが先生は、「う~ん・・・?」と首をかしげている。
「誰か・・・、ぽ子ちゃんかなぁ??なんかすごい音がしてるような・・・。」
「音・・・?ですか??」
「息漏れかなぁ、すごいザーーーッて雑音が・・・。」
それは気がつかなかった。
「ちょっともう1回みんなで歌ってみてくれる?」
イントロがあり、歌い出す。しばらくすると、先生からストップがかかる。そして、
「ちょっとぽ子ちゃん、最初のところ歌ってみて!?」ドキッ。やっぱり私!?
出だしは「ウー」だ。しばらくずっと「ウー」なのだ。歌う。
「ウー・・・。!!」
一同「ああっ!!」となった。なんだこれは!?
まるで吹雪のような雑音が入っているのである。
マイクのせいではない。ちゃんと私の「ウー」に合わせて「ザー」と丁寧に合わせてくれる。つまり私は「ウー」と「ザー」の両方を出しているということだ。
「これは凄い息漏れだね(笑)」先生はむしろ感心していた。
「手を口の前に出してウーって歌ってみて。」
言われた通りにすると、
「手に空気、当たる?」
当たります当たります、めっちゃ空気出てます。
本来歌を歌う時に、息はこのように出てこないものらしい。私は歌いながら一緒に空気も吐き出していたということだ。どうりで、どうりで息が続かない訳だ。
本当に長い間悩んできた問題だった。
遡ること10年。
合唱団に入ってからその問題は現れたのだ。
なぜか息が全然続かないのである。2小節、場合によっちゃ1小節とか、これは異常である。
ちゃんと出る時は出る。カラオケやバンドでは、そんなことは起こらないのである。
恐らく合唱的発声をしようとして、それがどこかおかしなことになっていたのだろう。
原因が分からぬまま10年が経ったが、息漏れだったのか。
マイクを通して初めて分かったことだ。そもそも息には音がないから、聞こえるものではない。マイクだけが、それを拾えたのである。
先生から声帯を閉じる練習を教えて貰った。
そして先日のレッスン。
声帯を閉じることを意識して、歌ってみた。
まだ上手くできないが、息はかなり続くようになっていた。
そもそも口から逃げていた息を、今度は違うところに送ることになる。それは上だ。口から出さずに喉から上にといざなう。何と新鮮な感覚。
カラオケでも試してみたが、高いキーも出やすくなるというオマケがついたのだ。
今はまだコントロールできていないが、少なくとも新しいアイテムを手に入れたことは確かである。
ぽ子54歳。
まだできることがある。
私は、歌う。
私はまだ歌う。
歌が、好きだ。