人間のクズ!

敵は自分の中にいる。ちょっとだけ抗ってみたくなった、ぽ子56歳。

歌う。

「じゃあちょっと、マイク通してみましょうか。」

ボーカル教室のアカペラクラスに入っている。月に一度のレッスンにて。

合唱もゴスペルも基本的にマイクを使うことはなかったが、どうやらアカペラではマイクを使うことになるらしい。

マイクは人の声を最大限に拾おうとするが、上手く使えば助けにもなる。

3人の生徒はマイクを握った。マイクを通すことにみんな、ちょっと緊張する。

モニターは上の方にあり、みんなの声が良く聞こえてとても良かった。ところが先生は、「う~ん・・・?」と首をかしげている。

「誰か・・・、ぽ子ちゃんかなぁ??なんかすごい音がしてるような・・・。」

「音・・・?ですか??」

「息漏れかなぁ、すごいザーーーッて雑音が・・・。」

それは気がつかなかった。

「ちょっともう1回みんなで歌ってみてくれる?」

イントロがあり、歌い出す。しばらくすると、先生からストップがかかる。そして、

「ちょっとぽ子ちゃん、最初のところ歌ってみて!?」ドキッ。やっぱり私!?

出だしは「ウー」だ。しばらくずっと「ウー」なのだ。歌う。

「ウー・・・。!!」

一同「ああっ!!」となった。なんだこれは!?

まるで吹雪のような雑音が入っているのである。

マイクのせいではない。ちゃんと私の「ウー」に合わせて「ザー」と丁寧に合わせてくれる。つまり私は「ウー」と「ザー」の両方を出しているということだ。

「これは凄い息漏れだね(笑)」先生はむしろ感心していた。

「手を口の前に出してウーって歌ってみて。」

言われた通りにすると、

「手に空気、当たる?」

当たります当たります、めっちゃ空気出てます。

本来歌を歌う時に、息はこのように出てこないものらしい。私は歌いながら一緒に空気も吐き出していたということだ。どうりで、どうりで息が続かない訳だ。

本当に長い間悩んできた問題だった。

遡ること10年。

合唱団に入ってからその問題は現れたのだ。

なぜか息が全然続かないのである。2小節、場合によっちゃ1小節とか、これは異常である。

ちゃんと出る時は出る。カラオケやバンドでは、そんなことは起こらないのである。

恐らく合唱的発声をしようとして、それがどこかおかしなことになっていたのだろう。

原因が分からぬまま10年が経ったが、息漏れだったのか。

マイクを通して初めて分かったことだ。そもそも息には音がないから、聞こえるものではない。マイクだけが、それを拾えたのである。

 

先生から声帯を閉じる練習を教えて貰った。

そして先日のレッスン。

声帯を閉じることを意識して、歌ってみた。

まだ上手くできないが、息はかなり続くようになっていた。

そもそも口から逃げていた息を、今度は違うところに送ることになる。それは上だ。口から出さずに喉から上にといざなう。何と新鮮な感覚。

カラオケでも試してみたが、高いキーも出やすくなるというオマケがついたのだ。

今はまだコントロールできていないが、少なくとも新しいアイテムを手に入れたことは確かである。

ぽ子54歳。

まだできることがある。

私は、歌う。

私はまだ歌う。

 

歌が、好きだ。