夢に出てきて、彼のことを思い出したのだ。
恐らく彼は、私のことなど忘れているだろう。もう35年ほど前のことだ。
私は英語の学校に通うことになった。
高校を辞めてブラブラしている私に、何でもいいから勉強しろ!と親が言うので選んだ学校だった。
専門学校などと言うちゃんとした資格が取れる学校ではなく、時間の長い英語教室、といった感じの学校だった。
クリスチャン系の学校で、教会と一体化していたように思う。
一クラスはたったの6人。
校長先生は神父さんで、とてもアットホームな学校だった。
入学のハードルも低く、恐らく最低限の英語力とやる気さえあれば、誰でも入学できたんじゃないかと思う。
そんな名で、異色な子がひとり。
確か一番若かったと思う。17か18かそのぐらいか。
初日彼は、流行りの太い黒ぶちのメガネにトラッドスタイルで登校して来たのだ。お洒落な男の子、という感じ。
人懐っこくすぐにみんなと仲良くなったが、実はどヤンキーのボクサーであることが分かる。着るものもメガネも、すぐに変わってしまった。
面白いことが好きで、思えばあの学校に来たのも単なる気まぐれだったんじゃないかと思う。
欠席も多く、勉強熱心とはとても言い難かった。
それでもたまに登校すれば、一緒にご飯に行こう、などととにかく人懐こいので、全く違うタイプの人種でありながらみんなには好かれていた。
しかし学校とは、暇つぶしに来るところではない。
やがて彼の登校日数はどんどん減って行き、長期欠席の形相を呈していた。
もう来ないのかな、と思った頃に、突然やって来る。それもきっと彼の気まぐれだったのだろう。勉強をしたくて来るのではない。
「少年院に入ってました。」そんな風に言っていたこともあった。
私達に対して武勇伝を得意げに言うようなことはなかったし、偉そうにふるまうこともなかった。
一度だけ、外を歩いていて人がぶつかった時に、舌打ちして大きく振り向いたことがあった。
ぶつかったのは彼ではなく、隣を歩いていた同じクラスの女の子だ。
反射的に動いたその速さと気迫に、私達の持たないものを見た。
私達といて楽しいのかな、とこっちが思うぐらい、本当にどうして彼があんなに懐いて来たのか分からない。彼が英語学校に来て私達とランチに行くのは、奇妙な図だった。
ヤンキー同士のピリピリした関係に疲れていたのか、それとも偏見というものが全くなく、ニュートラルな性格だったのかもしれない。
それでもやはり、気まぐれにすぎなかったのだろう。やがて彼はパッタリと学校に来なくなった。
またひょっこり現れるかと思っていたので、最後の日になってやっと「とうとう来なかった」という思いに至ったのだ。
今頃どうしてるかな。
3分ぐらいのところに、彼が出ている。
私達と過ごした不思議が伝われば(笑)