猫・エルを抱く。
そのままその先にいる犬・ミッツに近寄っていく。
興味は津々、ただやはり怖い。未知の動物。大きい。そしてあいつは良く吠える。
だから私が抱いているのだ。そろそろ君達の距離をもうちょっと何とかしたいものである。
一方、犬の方も興味津々だ。すでにクーンクーンと鼻を鳴らしている。
吠えてくれるなよ、ミッツ。君は賢い子だ。きっと我慢できる。
ジリ、ジリ、と少しずつ寄っていく。エルの体がギュウッと硬くなる。
この辺が限界か。
そこで足を止めると、エルはブルブルと震え出した。
ここまでである。今日も進歩なし。
理屈ではなく、体が震えているのだ。本当に怖いのだろう。
しかしふと思った。
人間だってその辺は同じだと思うが、こんな風に震える事なんてあったっけ??
思い返す。
なくはなかった。
思い出せるのは、人に対する恐怖であった。自分より、立場が上の人間。
中学生の時に悪さをしてお巡りさんに怒られた時。
仕事でやらかして上司に謝りに行った時。
意志とは関わらずにブルブルと体が震え出したのだ。そして意志では止められない。
思い出せるのはその2回だけだ。
意外と人間は精神的にタフなのか。それとも、動物よりも恐怖の対象が少ないのかもしれない。
もし見たこともない大きな動物が私を見て猛然と吠えたとしたら、私は震えるだろうか?
お巡りさんの恐怖はそれ以上ということなのか?
単に私の恐怖体験が少ないだけかもしれない。ありがたいことだ。
とは言え、怖いことは何度もあった。あんなんまだまだ余裕があるということなのだろうか。
大五郎は、東日本大震災の時、余震でブルブル震えていた。
体は大きいが、臆病なのである。雷もダメだ。
それでも上司やお巡りさんなんかは怖くないんだろうな。イエネコである彼には、恐怖の対象は人間より自然だ。
果たして「犬」に対してはどっちなのか?自然ではないが、人間でもない。
エルの判定は自然災害に近いようだが(笑)