「ぽ子、あのな、・・・あのさ。昨日オレ、すごい熱が出て。」
一人暮らしになってしまった父が心配で、できるだけ交流を持つようにしている。
父の方も気が紛れるのか、時々話し込むようなこともある。
この日はちょっとした連絡をするだけだったのが、電話を切ろうと思ったところで急に話し出したのである。
「昨日晩飯を食べて、テレビを見ながらちょっと飲んだらそのまま寝ちゃったんだよ。」
目に浮かぶようだ。
先日葬儀の後に父の家に集まった時も、みんなまだいるにも関わらずソファで寝てしまった。
歳取った父が食後に酒飲んでテレビなんか見たら、そこで寝てしまうであろうことは簡単に想像できる。
目が覚めたのは夜中の1時ぐらい。とても暑かったという。
確かにその晩は、私も暑くて夜中に目が覚め、エアコンを入れた日であった。
父も部屋を移動して、エアコンをつけて寝たとのこと。
「それがなかなか眠れなくて、やっとウトウトしたと思ったら今度は凄く寒いんだよ。手足が凄く冷えてるんだ。設定温度は26度だよ?そんなに低くねぇよな。それでも寒くて寒くて、これはおかしいと思って、薬飲んでエアコンかけてない部屋に移ったんだよ。」
言いたいことがあっても、とりあえず最後まで話は聞く。そして否定はしない。
母の時に学んだことだ。相手は話したいのである。
こう書くとシンプルだが、実際にはもっとこねくって時間をかけて、父は説明をした。
「それがまた眠れねぇんだよ。そのうち今度は汗びっしょりかいてさ、体が熱いんだ。すげぇ汗かいた。だからさ、オレ、着替えて布団2枚かけて寝たらさ、またすごい汗が出たんだよ。」
おかしいおかしいと、父は強調する。
「それが、朝になったら熱がないんだよ。こんなことがあるか。」
「今は具合悪くないの?」
「全然いいんだよ。あんな汗かいて寝てるだけなんて、それで朝になって治ってて、そんな風にするなんてオレ、誰からも聞いたことないのに、治ってるんだよ。」
つまり父は、
・一晩で熱が出て、熱が下がった。
・薬も効かないのに、汗を出しただけで治った。
・汗を出して治すなんて方法は誰からも聞いたことがないのにやっていた。
つまり父はもしかして、超常現象的なことが起こったと思っているか、と言うか、まさか、母のおかげと思っているのでは・・・・・・・。
「こんなことがあるのか?オレ、これは不思議でしょうがねぇんだよ・・・。」
しきりに父は、繰り返す。
否定はしない。父が求めているのは、それではないだろう。
しかしね、
「お父さん、熱は計ったの?」
「体温計がねぇんだよ。」
・・・お父さん。それ単純に、エアコンで体が冷えて、今度はエアコンなくて暑くなっただけじゃないの??EE:AE4E6
父の話だと「冷えた」「熱い」「汗」ばかりで、「具合が悪い」という言葉が出てこない。
しかし、否定はしないでおくよ。
お母さんが助けてくれたんだよねEE:AEACD