バリウムは攻略したつもりであった。
婦人検診。
胃のレントゲン、バリウムと聞いてピンと来ないあなたは、健康に興味がないか、健康に自信があるか、若いか、であろう。
35歳以上になると手にすることができるという、ある意味不名誉な検査だ。
そんなものは知らない、という方に説明すると、胃のレントゲンとは「バリウムを抱えた状態で、単独個室に設置されたスタンディングタイプの乗り物に乗り、自身もグルグル回りながら上下左右に揺さぶられる苦痛型アトラクション」である。
発泡剤というチケットを受け取ると、少量の水を与えられ、飲み下すように指示が出る。
間髪入れずに問題のバリウムを手渡され、有無を言わさず「飲め」である。
これはアトラクションに乗るための条件なのだ。
私は失格になったことがないから分からないが、この条件を満たさなかった場合、どうなるのだろうか。
この「バリウム」という飲み物は、まるでヨーグルトのようなもので、いやに重い。重いから飲みにくい。
味は悪くない。まんまヨーグルトだ。パーク側の計らいだろう。ここに来る人は、全員すきっ腹である。
そして始まる。戦いはここからだ。
バリウムが喉を通ったと思った途端、下の方からボコボコと空気が湧き上がってくるのだ。
ほっときゃ死ぬほどゲップが出るはずだ。ブスも美人も平等に赤っ恥をかくことになる。
ところが恥の問題ではなく、パーク側の要望で、それが許されないのだ。「条件」とは、こういったことも含まれる。
飲んだ者にしか分からんだろうが、その空気の上昇志向ったらハンパじゃないよEE:AE4E5
ガキ使なんかで良く芸人が色んなことやらされて我慢する姿を笑いものにしたりしているが、あのレベルである。
「ゲップが出そうになったらツバを飲み込むようにして~。」などというアドバイスを何度か聞いた。
しかし今回私は確信した。イケる。
年に一度の祭典だ、私とてボケッとバリウムを飲んでいた訳じゃない。
ちゃんと毎回、攻略法を考えていたのである。
バリウムを液体と思ってはいけない。これは固体なのだ。
そして胃袋から空気が上がってくる空気に、バリウムというフタをする感覚で、押すようにして飲み下していくのだ。
もはや悟りの境地。シラフで声に出して言う勇気はない。
飲んだらもう忘れる。不思議と「ゲップが・・・。」などと考えると、その心の隙をついてくるのだ。
若輩者はここで窮地に陥るかもしれないが、その時は自らのツバを固体と信じ込み、同じ要領で飲み込むと良い。
こちらの方が難易度が高いので、「プレイレベル・VeryHard」をお好みの方は、あえてこの道に飛び込むこともできる。
個室に通されると、カプセルを縦ふたつに割ったような乗り物が待ち構えている。
両手側にそれぞれつかまるバーがついているのでしっかりつかまると、いよいよ動き出すのだ。
どうせならガンガン回せばいいのに、こまめに止めて裏をかき、やぶからぼうに「そのまま右にぐるっと回って」などと指示される。
あまりの唐突さに、ゲストも思わずその通りに動いてしまう。
「夢から覚まさせない」のが、彼らの指名だ。
私達はボーッとしている間に何回転もし、時にはキメポーズを取らされ、我に返ったときにはゲップと共に現世に戻っている、という摩訶不思議な乗り物なのである。これは。
そして彼らは、小さな赤い粒のお土産をくれる。
・・・家で夢の続きだ。
~つづく~