「グランドアーマー、取れたよ。」
言うだけ言ってみた。
予想通り反応は無言、怪訝そうな顔でこちらを見返す娘ぶー子。
やはりゲームとは、世間のほんの一部の人間が楽しむ趣味であり、その内容の認知度は低い。
私が今プレイしているゲームは、ゲーム界ではトップクラスの誰でも知っているゲームになるはずなのだが、その内容の話ができるのはプレイヤー間だけに限られてしまう。
先日私は「グランドアーマー」という最強防具のひとつを非常に苦労して手に入れたのだが、この喜びを伝える相手も、この栄誉を称えてくれる人もいない。
ただの苦労ではない。言うのも恥ずかしいが、バグを利用した裏技で、特殊な取り方をしたのである。そのチャンス、実に2.4秒。
しかしこんな話は、真面目にすればするほど気持ち悪いものだ。だから誰にも言えずに悶々としていたのだが、どうしても我慢できずにダンナにだけは一から全部、詳しく解説しながら話してしまった。
もう返事だけ適当にしてくれればいい、聞いたふりでいいから、喋るだけ喋らせてと前置きした。ここまでしないと聞いてもらえる気がしないのである。
それでもまだ満足できなかったのだ。
そこでぶー子に言ってみたのだが、いきなりグランドアーマーと言われても戸惑うのは分かる。ここは想定の範囲内だ。
「最強防具が取れた。」と言い直すとぶー子は顔を写楽の有名な絵のように崩し、「はぁ?知らねーしEE:AE4E5」と言い捨てた。
「苦労して手に入れたのに、誰も分かってくれる人がいない・・・。」とボヤくと「気持ち悪いから!」とスマホに目を戻す。
否定できない。
私もいきなりゲーム用語とか出されたら、かなり引く。
しかしこのリアクションの酷さは何だ?
ホームランを打った、と言えば、すごいと言われるだろう。
ゴールをキメた、タイムを更新した、とりあえず「おお~」という感じにはなるだろう。
例えば訳の分からないカーリングでなんちゃらしたと言われても、説明されれば何となく「すごい」的な流れになるはずだ。
これがゲームだというだけで、説明すら恥になってしまうのである。
理不尽だ。
私は運良くグランドアーマーを手に入れたのではない。努力をして手に入れたのである。ホームランと一緒じゃないのか。
ついでに言うと、シカリのナガサFも大変だった。ゾディアークも苦労した。
あぁ、言えば言うほど気持ち悪いのが、自分でも良く分かる。
どうしてこんなにゲームの地位は低いのだろうか。思いのたけ、ゲームの話がしたいEE:AE4E5
ぶー子の反応が悪いので、諦めてキッチンで洗い物をすることにした。
ああ!?また汚れ物出しっぱなしッ。自分の分ぐらい洗えと何度も言っているのに。
「ちょっと!!これ洗ってよ!!もう何度言わせんのよもうEE:AEB30」
大きく息を吸い込んで続きを言おうと思ったらぶー子は、「あ、そうだったゴメンゴメン、そういえばグランドアーマー取れたんだって??すごくね!?」と返してきた。
不覚にも、嬉しかったEE:AEB64
「すごいすごい」と言いながら皿を洗い出したので、何も言えなくなった。
こんな賛辞でも嬉しいのが、ゲーム界の孤独である。
私は今、出現率256分の1という敵を探している。
見つかったらものすごく嬉しいが、言う相手がいない。