人間のクズ!

敵は自分の中にいる。ちょっとだけ抗ってみたくなった、ぽ子55歳。

生と死の境界線

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午前2時。プレステの電源を落とす。

今日こそは早く寝ようと思っていたのに、またこんな時間になってしまった。

ここのところはハッキリ言いたいが、ゲームの時間が延びているのではない。全体的に時間が遅くズレこんでいるのである。

ズレこんでなかったらゲームの時間が延びていただろうが。

歯を磨き、窓を閉める。おっと、シャッターが半分開いていた。

両腕を上げてシャッターをつかんで力を込めたその瞬間。

ちょーーーーーっと待った!!

あっ、あぶねー、ウッ、しかし。

シャッターの真下には、大きな蛾が1羽、とまっていたのである。

このままシャッターを下ろしたら、潰してしまう。こんな大きな蛾を潰したら・・・、グエッ・・・、などと考えているうちに、蛾は家の中に入ってしまった。

なんてこった!!蛾は飲酒運転の車のように、フラフラとあてどもなく飛んでいる。

昔はキャーキャー言っていた虫もずいぶん慣れたが、蛾はダメだ、こんなに大きいのは特別ダメだ、そんなのが、あてどもなく飛んでいるのである。あてどもなく。

私も相手の動きを見ながらあちこち逃げ回る。

どうしよう、とんでもないことになってしまった。かと言ってどうすれば良かったのか。

潰すよりはマシだったのだ、これは最善の流れなのである・・・(泣)

とは言え、どうする?

蛾から逃げなくてはならないので、私の行動は蛾によって完全に制限されている。

閉めかけのシャッターを閉めるのも、部屋の電気を消して回るのも、携帯を取ってきて猫を寝室に連れて行くのも、蛾の行き先次第なのである。

もう全てを放棄して寝てしまおう。今夜の添い寝相手を見ると、なんとエルは果敢に蛾に飛びついていた。

もともとは野生動物である。猫は動くものには興味を示し、ちょっかいを出すのが常だ。

そして7センチ程のヒラヒラした物体が、フラフラと部屋の中を舞っている。

「蛾」も「気持ち悪い」も「怖い」もないのである。ただ動くそれを、本能的に狩りたいだけなのだ。

正直に言う。

それを見て私は、「やっちまってくれ」と思った。

自分ではどうにもできない、かといって、いてもらっては困る物体。

誰かが始末してくれれば、そんなに楽なことはない。

私は寝ていた大五郎も起こした。

2匹の猫の戦闘体制は、残りの2匹も目覚めさせた。

結果、蛾は4匹の猫に追われることになった。

飛んでいるので決定打はなかなか入らない。

蛾は時々、猫にパシッとはたかれていた。

蛾は死ぬだろうか。逃げ切るだろうか。

どちらにしても、私は非常に暗い気持ちであった。

後者なら、明日になって突然どこかで鉢合わせることになる恐怖。

そして前者はもっと複雑な気持ちであった。

手を下すのが猫であっても、これは私が殺すも同然である。

なぜ殺す?

怖いから殺す。

怖いから、という理由だけで命を奪うこと。

あの蛾は、私の命を脅かしているか?

私の生活をそんなに脅かしているか?

この場合の「怖い」は、もっと単純な「怖い」である。

嗜好とか生理現象とかいった、理由を持たない恐怖。

極端に言えば、私が気に入らないから殺すのである。

私は蛾をこの部屋から出す方法を考えた。

しかし私は近づくことすらできないのである。

長い虫取り網でもあればいいが、あんな予測不能の動きをする恐怖の7センチ、私が一定の場所にいざなうのは難しい。

どうしよう、どうしよう、と考えているうちに、蛾はみるみる弱っていった。

小さな命である。ちょっといじくり回されるだけで、こんなに弱ってしまうのである。

もう飛ぶこともできず、床に落ちて弱々しく羽を動かしている。

やがて死ぬだろう。

床にうごめいている蛾を、4匹の猫が囲んでいる。

蛾であるというだけで、こんなことになってしまったのだ。

「気持ち悪いから殺していい」という権利を、私は誰かから授かった記憶はない。

それなのに、蛾であるという理由だけで、私は殺してしまうのである。

格好つけんなよ、もっと平気で殺しているものがいっぱいいるじゃないか。

私はゴキブリを殺すのをためらった事があるか。

目の前を飛んでいる蚊を握りつぶして、その反射神経を自慢したことがあるだろう。

人間以外の生物を生かすか殺すかのボーダーは、気づかぬうちにみんな自分で作り上げているのである。

しかし、少なくとも蚊やゴキブリは人に害を及ぼす。

果たして「気持ち悪い」を死のボーダーに入れることは、正しいとは思えない。

いくら相手が気持ち悪くても、自分よりも強ければ、私は殺すことができない。

これは、圧倒的に自分が強いからこそできる傲慢である。

そしてこんな出来事は、きっとすぐに忘れてしまうだろう。

かといって、あの状況でどうしたら良かったのかといくら考えても、何も思いつかない。

その代わり、あの状況をどうにかできるアイテムを思いついた。

虫取り網を常備することにする。

これで今後、いくらかの小さな命を救えることを願う。