寒い・・・、ここは寒い。
あぁ太陽が恋しい。
懐かしいオヤジさん、おかみさん、俺はもう帰れないのか。
太陽。
俺が育ったのは、広大な農場だった。
いつからなぜそこにいるのか、本当の親はどうしたのか、俺には分からない。
分からないが、気にしたことなどなかった。
俺にはオヤジさんとおかみさんがいて、毎日可愛がってくれたんだ。
「大きくなれ、アントニオ。」それがオヤジさんの口癖だった。
俺だけにではなく、誰にでもそうやって声をかけていたっけ。「大きくなれ、ブレンダ。」「大きくなれよ、ブルーノ。」
俺たちは、大きくなった。
相変わらず広々とした農場で太陽の光を浴びていたが、ある日、オヤジさんはいつものように「大きくなったな、アントニオ。」と言うと、俺をそこから連れ出したのである。
カミラ、エミリア、クラウディオ、フェルナンド・・・、「大きくなった」俺たちを集め、オヤジさんは倉庫に閉じ込めた。
もう太陽は届かない。
これがオヤジさんとの別れになった。
やがてあっちに移され、こっちに運ばれ、どうやら俺は海を渡ったようだ。
疲れた。
時々乱暴に水がぶっかけられるだけで、誰も俺らに見向きもしない。
そして俺たちも何も言わない。
それが俺たちの定めだからだ。
みんな、観念していた。
委ねるしかない。
やがて時々太陽を見るようになった。
それはあの頃のようなギラギラとしたようなものではなく、遠く、そして束の間であった。
ここでは人の瞳は黒い。言葉も分からない。
遠くに来たのだ。太陽が恋しい。
とうとう俺らは縛り上げられた。
ドミンゴ、ヘラルド、エビータ、マルセラと俺、どう選ばれたのかは分からないが、5人でぎゅうぎゅうに縛られ、放り出されたのだ。
「大丈夫か。」
「負けるな、いつか帰れる。」
俺たちは励ましあった。
最後の仲間である・・・。
そしてここに来た。
暗くて寒い、地獄のようなところだ。
先客が何人もいて、気の毒そうに声をかけてくる。
みんな、諦めきっていた。ここにあるのは絶望だけだ。
「お前たちはまだ若いからいい。」しわくちゃの老人が言う。
「もうわしは、ここで朽ちていくしかないんだ・・・。」
暗くて良く見えないが、どうやらこの悪臭は「朽ちた」先客のものらしい。
老人が言うには、若いうちに助け出されなければ、朽ちるしかないと。
頼む、誰か助けてくれ。
・・・寒い・・・、とうとう俺の足も凍傷でやられちまった。
「ドミンゴ、生きてるか。」
「ああ、でもエビータが危ない。」
「エビータ・・・。」
「私たち、何のために生まれてきたのかしら・・・。」
その時、ついに扉が開き、俺たちは助け出されたのである。
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今となっては見たくないものが、冷蔵庫の野菜室の奥にあったのだ。
アスパラガス。
早く使わなきゃと思いつつ、後回しにしているうちに痛んでいく。
痛めば痛むほどに、その現実から逃げたくなるのだ。
今日、ついに手にとってみたら、下の方はしなびてカビが生えていたが、上のほうは比較的フレッシュだったので切って使うことにした。
5本をテープで巻いてあったのだが、そのテープにはゴールドの美しい書体で「メキシコ産」と書いてあった。いつもと違うスーパーで買ったのだが、いつもよりちょっといいものだったようだ。
メキシコからはるばるここまで来てこの扱い。
私は彼らに思いを馳せずにはいられなかったのである。
ごめんね、ダンナの弁当におなり。
~The End~