人間のクズ!

敵は自分の中にいる。ちょっとだけ抗ってみたくなった、ぽ子56歳。

アントニオの空

寒い・・・、ここは寒い。

あぁ太陽が恋しい。

懐かしいオヤジさん、おかみさん、俺はもう帰れないのか。

太陽。

俺が育ったのは、広大な農場だった。

いつからなぜそこにいるのか、本当の親はどうしたのか、俺には分からない。

分からないが、気にしたことなどなかった。

俺にはオヤジさんとおかみさんがいて、毎日可愛がってくれたんだ。

「大きくなれ、アントニオ。」それがオヤジさんの口癖だった。

俺だけにではなく、誰にでもそうやって声をかけていたっけ。「大きくなれ、ブレンダ。」「大きくなれよ、ブルーノ。」

俺たちは、大きくなった。

相変わらず広々とした農場で太陽の光を浴びていたが、ある日、オヤジさんはいつものように「大きくなったな、アントニオ。」と言うと、俺をそこから連れ出したのである。

カミラ、エミリア、クラウディオ、フェルナンド・・・、「大きくなった」俺たちを集め、オヤジさんは倉庫に閉じ込めた。

もう太陽は届かない。

これがオヤジさんとの別れになった。

やがてあっちに移され、こっちに運ばれ、どうやら俺は海を渡ったようだ。

疲れた。

時々乱暴に水がぶっかけられるだけで、誰も俺らに見向きもしない。

そして俺たちも何も言わない。

それが俺たちの定めだからだ。

みんな、観念していた。

委ねるしかない。

やがて時々太陽を見るようになった。

それはあの頃のようなギラギラとしたようなものではなく、遠く、そして束の間であった。

ここでは人の瞳は黒い。言葉も分からない。

遠くに来たのだ。太陽が恋しい。

とうとう俺らは縛り上げられた。

ドミンゴ、ヘラルド、エビータ、マルセラと俺、どう選ばれたのかは分からないが、5人でぎゅうぎゅうに縛られ、放り出されたのだ。

「大丈夫か。」

「負けるな、いつか帰れる。」

俺たちは励ましあった。

最後の仲間である・・・。

そしてここに来た。

暗くて寒い、地獄のようなところだ。

先客が何人もいて、気の毒そうに声をかけてくる。

みんな、諦めきっていた。ここにあるのは絶望だけだ。

「お前たちはまだ若いからいい。」しわくちゃの老人が言う。

「もうわしは、ここで朽ちていくしかないんだ・・・。」

暗くて良く見えないが、どうやらこの悪臭は「朽ちた」先客のものらしい。

老人が言うには、若いうちに助け出されなければ、朽ちるしかないと。

頼む、誰か助けてくれ。

・・・寒い・・・、とうとう俺の足も凍傷でやられちまった。

「ドミンゴ、生きてるか。」

「ああ、でもエビータが危ない。」

「エビータ・・・。」

「私たち、何のために生まれてきたのかしら・・・。」

その時、ついに扉が開き、俺たちは助け出されたのである。

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今となっては見たくないものが、冷蔵庫の野菜室の奥にあったのだ。

アスパラガス。

早く使わなきゃと思いつつ、後回しにしているうちに痛んでいく。

痛めば痛むほどに、その現実から逃げたくなるのだ。

今日、ついに手にとってみたら、下の方はしなびてカビが生えていたが、上のほうは比較的フレッシュだったので切って使うことにした。

5本をテープで巻いてあったのだが、そのテープにはゴールドの美しい書体で「メキシコ産」と書いてあった。いつもと違うスーパーで買ったのだが、いつもよりちょっといいものだったようだ。

メキシコからはるばるここまで来てこの扱い。

私は彼らに思いを馳せずにはいられなかったのである。

ごめんね、ダンナの弁当におなり。

   ~The End~