娘ぶー子が新しい職に就いてから、約3週間。
今度の職場は人数が多いので、人間関係に馴染めない、と良くため息をついていた。
学校のような大きな組織が苦手なのである。
また、仕事の指導をしてくれる上司がいい加減なタイプで、それも苦痛だと言ってグチッている。
しかし社会とはそのような人間込みで構成されているものなのだ。
気の合う人間ばかりではない。
これもまた、修行のうちである。
そんな中で、清掃を担当している外国人とは気が合うらしく、それを小さな救いにしているようだ。
勤務地は新宿である。韓国、中国、マレーシア、実に多彩な国の人間が、清掃に就いているらしい。
「珍しいところでは?」
「バーレーンEE:AEAA6」
バーレーン・・・、それはどこにあるのか。
私には月ほど遠い国である。
そんなバーレーンと食事をしてきたそうな。
そいつは楽しそうだね。
「うん。楽しかった。・・・口説かれるまでは。」
口説かれたんかい(笑)
それは「今夜」ということか、「今後」ということか?
「いやもう、めっちゃマジメにすげー愛してますと。」
まだそれ程親しくもなかろうに「愛してます」とは凄いが、とにかく向こうの人である、アタックがハンパじゃないらしい。
ぶー子はまるでそんなつもりはなかったようなので「友達としてしかつき合えない」とハッキリ言ったらしいが、「いつまででも待つ」「必ず幸せにする」「他のヤツに渡したくない」とまるで引かないバーレーン。
・・・・・。
「そこまで言われてグラッと来んのか、あんたは。」そうだ、正直ちょっと羨ましい。
「はぁ?好きな人なら嬉しいけど、何とも思ってないし。」
「それでもそんな熱烈告白されたら、ちょっとは心が動くもんじゃないか?顔は?」
「悪くない。でも好みじゃない。」
「背は?」
「まぁ普通。」
「スタイルは?」
「まぁ悪くない。でも・・・、」
「でも?」
「胸毛が・・・EE:AE4E6あーゆーの、ダメ・・・。」
「ワイルド、と思えないか。」
「うー、そういう言い方もあるけど、私、あんなに自信持ってる人は、苦手だ・・・。」
分からなくもない。
一体彼は、ぶー子の何を知っているというのか?何を根拠に幸せにできるなどと思っているのか?
いや彼は外国人である。もはやこれはハンティングに近いのかもしれない。
言葉に意味はない、振り向かせるための装飾品のようなものなのだろう。
バーレーン曰く、女性は太陽であり、そのために尽くすのが男なのだそうだ。
「日本では女のヒト、男と同じに働いて可哀相ネ。給料も少ないネ、それなのにワリカンとか、日本人、オカシイヨ。」
食事中も、飲みものは彼が全てとってきてくれ、タバコをくわえれば火をつけ、ホスト並の応対だったとか。
「あんた・・・、それ・・・、私に紹介してよ。」
しかし愛もなく、胸毛がボーボーだという事は、決定的に我が家の遺伝子と結びつかないのである。
惜しい。