映画「それでもボクはやってない」のモデルになったケースの原作である。
痴漢だと突き出されてから無罪を勝ち取るまでの、長い長い記録である。
痴漢として囚われた本人とその妻の側から、交互に日記のように綴られている。
映画を観ていたのであの時ほどの衝撃はなかったが、活字には活字の迫力がある。
全てが真実なのだ。
こんな事が許されていいのかと憤るばかりである。
現状では「痴漢です」と突き出されて駅員について行った時点で、ありもしない罪を認めるか勝ち目のない裁判をするかの運命となる。
己の潔白を証明するためには裁判しかないが、そうなると被害者の証言が終わる数ヶ月先まで家に帰ることはできない。
刑事や検察にはクソミソに罵倒され、精神的にも肉体的にも限界に立たされての数ヶ月は、長い。
しかし著者矢田部氏は最後まで頑張った。
もちろん何度もくじけたし、無罪を勝ち取るまでには家庭崩壊の危機もあった。
冗談ではなく地獄のような2年間だが、これでも彼は多くの友人に助けられ、運が良かった方なのだろう。
多くは泣き寝入りである。
災害である。
誰にでも突然起こりうる、恐ろしい災害だ。
男性は両手をあげて電車に乗るしかないのだろうか。
しかし被害者が泣き寝入るのでは本末転倒である。
痴漢の被害も冤罪もなくすためには、まだまだ時間がかかりそうだ。
ぽ子のオススメ度 ★★★★★
お父さんはやってない
矢田部孝史+あつ子
太田出版 ¥1524+税