ぽ子は怒っていた。
激しく怒ってた。
昨日ついにダンナが帰れずに、また娘ぶー子の帰宅も夜中の1時半となり、たったひとりでお手製のつくねを食べる羽目になったからではない。
部屋を片付けるためである。
一応日々、チマチマと片付けのような事はしているが、いかんせん根本的に何とかしなくてはならない状態で、それを解決しない事にはいつまで経っても片付かないという部屋になっていた。
私は休日の今日、その根本的な解決に挑もうと決心したのだが、生半可な気持ちでは片付かない事は分かっていた。
捨てなくては入らないという状態なのだ。
根本的な問題とはつまり、収納場所がないという事で、行き場のない物があちこちに出しっぱなしになっているのだ。
些細な物ばかりである。
空の植木鉢、100均のフック、ゲームのソフト、etc。
些細なばかりにしまう場所の事を考えずに買ってしまうのだ。
それをとりあえずポンと置いて、それっきりである。
そしてその中でも最も悪しき巣窟は、数ヶ月前からリビングに築きあげられていた。
ある日突然何の前触れもなく、ダンナはしまってあったガラステーブルを、狭いこのリビングにドンと置いた。
ガラステーブルならすでに、テレビとソファの仲を取り持つようにその間に置いてあったので、一体何が起こるのかと私は訝った。
ダンナはそのガラステーブルにクロスを敷いた。
そして徐々にその上に、ダンナの寝室に置いてあったダンナの私物が置かれ、隙間にはワインのパック、猫のトイレシート、使い道のない時計などが次々に置かれていった。
その無節操さが次の「とりあえず」の物を誘い、いつの間に「とりあえず置き場」と化してしまったのだ。
私はこれがこのまま定着するんじゃないかと不安になってきた。
ダンナは物の溢れるこの現状を何とかするために良かれと思ってやったのだろうが、この何の脈絡もないただのモノの集まりが、私には我慢がならなかった。
アイデアはいいが、見た目の問題である。
しかしなぜここにこんな状態で積まれているかというと、置く場所が他にないからである。
なのでこれを解散させたくば、置き場所を確保しなくてはならないということだ。
そして、何で置き場所がこれまで確保できなかったかというと、場所がないからである。
つまり、場所を空けなくてはならないのだ。
それは何かを捨てなくてはならないことを意味している。
そもそも何でこんなに場所がないかと言うと、捨てられないからである。
使えるものは何でもとっておく。
しかし場所を空けるとなると、使えるものを捨てなくてはならない。
ついにその時が来たのだ。
繰り返すが、私は捨てられない女である。
並大抵な気持ちでは、とてもこの作業はできそうもない。
そこで私は怒る事にしたのだ。
「・・・のヤローー!!」と勢いをつけてどんどんゴミ箱に放り込んでやる。
ドラクエで言えば、テンションを上げるとでも言うか。
リミットゲージを気合で溜めるというか、無双ゲージでもいいが、とにかく通常の力以上のものが必要だったのだ。
うぉ~~~~っ(怒)!!と、片っ端から収納スペースを開けていき、オラオラ、使えるけど使えない子はどこじゃあ、と手を突っ込んでひとつずつ品定めをする。
しかし気がついたら私は大人しく座り込んで、チマチマと寄せたり合体させたりしていた。
結局捨てたのは、壊れた時計ぐらいである。
まぁこれも、思ったより収納スペースが過密でなかったからできた事で、もう後がない。
ダンナがどういう意図でこのガラステーブルを置いたのかは良くわからないが、いつか何とかするつもりのそれこそ究極の「とりあえず」だったのか、それとも心を込めて「『とりあえず』に永遠の住みか」を与えたのか。
ダンナは久しぶりに早く帰ってくるが、何もなくなったガラステーブルを見てどう思うだろうか。
今さらながら、とんでもない事をしてしまったような気がしないでもない。