人間のクズ!

敵は自分の中にいる。ちょっとだけ抗ってみたくなった、ぽ子56歳。

突然の再会

終バスまで、1時間。「もうあんまり時間ないね。」

仕方がないので、バス停に近い居酒屋で軽く飲もうと向かっていたのだ。

その時。

「あ。」

前から歩いてきてすれ違おうとしたその人は、「スーさん」であった。

 

会うこと自体は、そんなに久しぶりでもない。

しかし「お互いに自由」という状況で会うのは、凄く久しぶりだ。

 

スーさんとの出会いは、十数年前に遡る。

今は無きミュージックバー、POPROCK。

私の人生を変えたと言っても過言ではないお店であった。

ここで私はたくさんの仲間と出会い、繋がり、バンドという第2の青春を歩み出したのだ。

その初めてのバンドが、スーさん率いる「一中バンド」であった。私は西中ですがね(笑)

リハはいつも5~6時間、そのうち酒飲み「中休み」が数時間入る。その後は飲みながら、セッションの如きリハが続くのが常だった。

メンバーはいつも二日酔い、迎え酒で始まり、リハのあとは一緒に飲みに行く。

愛すべき少年オヤジ。とっても悪くてとっても優しい。一中は、大好きなお兄さん達であった。

コロナ禍でバンド活動が途絶え、疎遠になっていたのだ。自粛が明ける度に「一中と飲みたい」と話していたが、明けたら明けたでやりたいこともたくさんあった。

そんなんでなかなか会えずにいたが、会えてしまった(笑)

「どこ行くの?」

「庄やにでも、って言ってました。」

「しょ・・・、分かった、オレ、連れて行くから飲みましょ。」

スーさんは左手にダンナの手を、右手に私の手を取って歩き出した。

 

そこは、新しくできたお店だった。

路地の奥まった場所にあり、目立たないお店である。

中に入るとまた、偶然音楽仲間が来ていた。あぁなんか、こういうの久しぶりだ。コロナなんて、まるでなかったみたいである。

 

お店の料理は、抜群に美味しかった。スーさんは、ちゃんといいお店を知っているのだ。

そのくせ自分は、全然食べない。

タバコをやめたのはいいことだけど、ちゃんと食べて欲しいと本当に心配になる。

「一中のみんなに会いたい」という話をすると、「じゃあ行きましょう。たぶんあそこに行けばタケダがいる。」スッと会計を済ませ、席を立った。「オレね、儲かってるの♪」スーさんは、いたずらっぽく笑った。私達はこれまで、一度もお金を払ったことがない。お金ではない何かでしか、返せないような気がする。

 

タケダさんがいると思われるお店に向かう途中で、スーさんの足が止まった。フィリピンパブの前である(笑)

「タケダじゃなくて、アオヤギがいるかも。」そう言ってスーさんは、躊躇なく中に入って行った。

 

カオスだ。

昭和で時の止まったスナックである。

普通フィリピンパブというと、スーツ着た綺麗な姉さんが隣に座ってもてなしてくれたりするもんだが、Tシャツ来たガタイのいいおっかさんみたいなのや高校生のお手伝いみたいな子がいたり。

みんな気のいい人で、お店自体がひとつのファミリーみたいな感じだ。楽しかった。

アオヤギさんはいなかった。

私達はこのお店を出て、別れた。

別れた後、妙にしんみりしてしまった。

「会えて良かった。」

でもなんでこんな風に、寂しいんだろう。

 

大好きなスーさん。

頼りがいのある兄貴であり、儚げな少年のようでもあり。

体を大事にしてください。

ご飯をたくさん、食べてください。

 

私達はスーさんの後姿を見送った。