人間のクズ!

敵は自分の中にいる。ちょっとだけ抗ってみたくなった、ぽ子55歳。

パンドラの匣 / 太宰治

私が初めて太宰治を読んだのは、17、8の頃であった。

たまたま家にあった「斜陽」を、たまたま暇だったから読んだのがきっかけで、続けて「人間失格」も読んだ。なんとも言えない気持ちになったことを覚えている。

人の顔色を伺ってヘラヘラしている自分、「最後には死んでしまえばいい」という思想、自分という人間の軽さ。葛藤。孤独。

まるで自分を見ているようで、悲しいような、それでいて、自分だけではないという安心感があったような、複雑な気持ちであった。

あえて封印したわけではなかったが、太宰はそれっきりである。

それが、読む本の在庫がたまたま切れたので、ダンナの読んだ本の中からこの本を手に取ったのである。

あまり気が進まなかったが、これは面白かった。

この本には「正義と微笑」と「パンドラの匣」の2編が収められている。

ストーリー的にはハッキリ起承転結のあるドラマではないが、どちらも主人公の若い人間臭さが包まず描かれていて面白い。

解説を読むと「青春小説」となっていたが、なるほど、若いがゆえの愚かな思想や行動が面白い。

誰もが身に覚えのあるような、若気の至り的な発想。

意味のない反抗心。

中身のない自尊心。

揺らぎ。

どちらの主人公もカッコイイ事を言うが、コロコロ気持ちは移り変わり、もっともらしい理由をつける。

しかしその様が不快にならないのは、自分も通り過ぎてきた道だからではなかろうか。

特に「正義と微笑」の主人公のだらけっぷり、そしてその開き直りや言い訳が、二日酔いで寝ている自分にそっくりで、またここで「何とも言えない気持ち」を感じることになった。

しかし太宰は単なるクズではないので、本を通して尊い言葉もたくさん残している。私はもう一度読んで、いい言葉にマーカーをつけようと思う。

古い小説だが文章も面白く、当時はかなり斬新だったのではないかと思われる。

太宰に親しみを感じた。

ぽ子のオススメ度 ★★★★☆

「パンドラの匣」 太宰治

新潮文庫