私が初めて太宰治を読んだのは、17、8の頃であった。
たまたま家にあった「斜陽」を、たまたま暇だったから読んだのがきっかけで、続けて「人間失格」も読んだ。なんとも言えない気持ちになったことを覚えている。
人の顔色を伺ってヘラヘラしている自分、「最後には死んでしまえばいい」という思想、自分という人間の軽さ。葛藤。孤独。
まるで自分を見ているようで、悲しいような、それでいて、自分だけではないという安心感があったような、複雑な気持ちであった。
あえて封印したわけではなかったが、太宰はそれっきりである。
それが、読む本の在庫がたまたま切れたので、ダンナの読んだ本の中からこの本を手に取ったのである。
あまり気が進まなかったが、これは面白かった。
この本には「正義と微笑」と「パンドラの匣」の2編が収められている。
ストーリー的にはハッキリ起承転結のあるドラマではないが、どちらも主人公の若い人間臭さが包まず描かれていて面白い。
解説を読むと「青春小説」となっていたが、なるほど、若いがゆえの愚かな思想や行動が面白い。
誰もが身に覚えのあるような、若気の至り的な発想。
意味のない反抗心。
中身のない自尊心。
揺らぎ。
どちらの主人公もカッコイイ事を言うが、コロコロ気持ちは移り変わり、もっともらしい理由をつける。
しかしその様が不快にならないのは、自分も通り過ぎてきた道だからではなかろうか。
特に「正義と微笑」の主人公のだらけっぷり、そしてその開き直りや言い訳が、二日酔いで寝ている自分にそっくりで、またここで「何とも言えない気持ち」を感じることになった。
しかし太宰は単なるクズではないので、本を通して尊い言葉もたくさん残している。私はもう一度読んで、いい言葉にマーカーをつけようと思う。
古い小説だが文章も面白く、当時はかなり斬新だったのではないかと思われる。
太宰に親しみを感じた。
ぽ子のオススメ度 ★★★★☆
「パンドラの匣」 太宰治
新潮文庫