その晩、私は酷く迷っていた。
時刻は23時。遅い夕食を終えて、風邪薬を飲んだ後である。
忘年会の二日前であった。とにかくこの厄介なものを早く治してしまいたかったのだ。
微熱でダルく、これはもうサッサと寝てしまおうと思っていたのだが、「玉子酒」という言葉が頭を掠めてから、私の心はまるで何かの呪いにでもかかったように、病んでしまったのである。
飲みたければ飲めばいいのだ、難しい問題ではないのだが、それをややこしくしていたのが先ほど飲んだ「薬」である。
私はすっかり玉子酒気分で作り方をネットで調べていたのだが、そのレシピの最後に「薬と玉子酒を一緒に飲んではいけません!!」と書いてあったのである。
ほんの数分の差であった。あと少し、レシピを早く見ていれば・・・、手を突っ込んで薬を吐こうとすら思ったほどである。
飲めないと思うほどに、玉子酒への思いが募る。
どこかに酒と風邪薬を一緒に飲んだ実績を持つものはいないかと検索していくが、新しい話を読むほどに、玉子酒の素晴らしさが伝わってくるばかりだ。
玉子酒といえば、私も以前一度作って飲んだことがあった。
あの時も風邪を引き、何とか民間療法で治したかったのである。
その時の玉子酒は「薬的な味」となっているが、後でわかった、甘味料が何も入っていない。
日本酒、しょうが、卵の合体だ、美味しいわけがない。
ところが今回調べたレシピはどれも「トロトロして美味しいEE:AE595」だとか「これで次の日はスッキリEE:AEAAB」だとか、大絶賛である。
これを飲むとポカポカと温まり、よく眠れるそうじゃないか。
あぁ、ポカポカ温まって良く眠りたい!!
風邪薬め。
絶対一緒に飲んじゃダメなの??
私は懸命に調べた。
調べた、というより探した。「お酒と風邪薬を飲むと良くないというが、たいしたことにはならない」という言葉を。
そんな無責任な言葉はなかなか見つからなかった。
ならば自己責任でリスクを負おう。一体、どのように悪いというのか。
風邪薬に限らず、薬とアルコールの組み合わせはお互いの効果を増強させてしまうとのこと。
つまり、酔いが早く回る、薬の効き目と副作用が強く出る、ということらしい。
副作用以外は別に全然悪くないじゃんEE:AEACAむしろお得じゃございませんか。
問題の副作用だが、具体的には眠気が強く出る、というのが一番多かった。
なんだ、早く酔って薬が良く効いてグッスリ眠れていいことずくめではないか。
気になるところでは肝機能云々いうのがあったが、そういうのは見たくないのでサラッと流した。怖いからである。「稀になんたら・・・」というのも同じ理由でスルーした。
これで私の迷いがなくなれば良かったのだが、もうひとつ問題があった。
酒と風邪薬、といういけない組み合わせをやっちゃうのだ。これ以上の悪さはできない。
つまり、もし寝付けなかった場合、安定剤を飲めないということである。
私は「眠れない」という状態が、ものすごく恐ろしいのだ。玉子酒は魅力的だが、安定剤を飲めないというのはほとんど脅しに等しい。
ここから私の苦悩が始まるのである。