吉村昭、続いてますが。
昔好きだったのである。こうして今読み返して、処分しているのだ。
家にあるものでは最後の1冊になる。
昭和初期に4回の脱獄に成功した男をモデルに描かれた、ノンフィクション小説だ。
今回も面白かった。
強盗殺人の罪で服役中の佐久間は、呆気なく青森の刑務所を脱獄。
すぐに捕まるが、次に送られた秋田の刑務所も、厳重な警備をかいくぐり、またも脱獄。
要注意人物として、もっとも堅固といわれる網走の刑務所に送られることになるが、ついにここをも破獄。
次に送られた札幌刑務所も簡単に抜け出し、当時最新の設備が整っているといわれた府中刑務所にやって来る。
彼に不可能はないのだ。ここもやがて出て行くだろう。
どうしたら佐久間をここから出さないことができるのだろうか。
所長・鈴江が考え出した方法は、賭けであった・・・。
佐久間の脱獄の手口もすごいが、脱獄後の逃走もまた、見事である。
頭脳・体力ばかりでなく相当の忍耐を必要としただろうが、非凡な人間であったことが良く分かる。
もはや刑務所側はそれに対抗する術は持たないと思われたが、鈴江所長の決断は意外なものであった。
最後まで目が離せない。
当時の戦況や世相の描写が多いのがちょっとキツかったが、どれも刑務所に大きな影響を及ぼしており、それが囚人である佐久間に影響するのである。切り離せない環境であった。
佐久間の脱獄物語というだけではなく、府中刑務所で彼はどうなるのか、そこにこそこの物語の面白さがあるように思う。
2度楽しめた。
ぽ子のオススメ度 ★★★★★
「破獄」 吉村昭
新潮文庫