人間のクズ!

敵は自分の中にいる。ちょっとだけ抗ってみたくなった、ぽ子56歳。

破獄 / 吉村昭

吉村昭、続いてますが。

昔好きだったのである。こうして今読み返して、処分しているのだ。

家にあるものでは最後の1冊になる。

昭和初期に4回の脱獄に成功した男をモデルに描かれた、ノンフィクション小説だ。

今回も面白かった。

強盗殺人の罪で服役中の佐久間は、呆気なく青森の刑務所を脱獄。

すぐに捕まるが、次に送られた秋田の刑務所も、厳重な警備をかいくぐり、またも脱獄。

要注意人物として、もっとも堅固といわれる網走の刑務所に送られることになるが、ついにここをも破獄。

次に送られた札幌刑務所も簡単に抜け出し、当時最新の設備が整っているといわれた府中刑務所にやって来る。

彼に不可能はないのだ。ここもやがて出て行くだろう。

どうしたら佐久間をここから出さないことができるのだろうか。

所長・鈴江が考え出した方法は、賭けであった・・・。

佐久間の脱獄の手口もすごいが、脱獄後の逃走もまた、見事である。

頭脳・体力ばかりでなく相当の忍耐を必要としただろうが、非凡な人間であったことが良く分かる。

もはや刑務所側はそれに対抗する術は持たないと思われたが、鈴江所長の決断は意外なものであった。

最後まで目が離せない。

当時の戦況や世相の描写が多いのがちょっとキツかったが、どれも刑務所に大きな影響を及ぼしており、それが囚人である佐久間に影響するのである。切り離せない環境であった。

佐久間の脱獄物語というだけではなく、府中刑務所で彼はどうなるのか、そこにこそこの物語の面白さがあるように思う。

2度楽しめた。

ぽ子のオススメ度 ★★★★★

「破獄」 吉村昭

新潮文庫