昭和18年。
第2次世界大戦の真っ只中、戦況は悪化しつつあった。
20歳の幸司郎は霞ヶ浦海軍航空隊に身を置いていたが、きつい訓練と体罰に疲弊していた。
そんな時に出会った「山田」と名乗る男は、若い幸司郎のたったひとつの心のよりどころになっていく。
優しく、頼り甲斐があり、父親のように自分を包み込んでくれる存在。
そんな山田のために、幸司郎は禁を犯す。
些細なことであったが、今度はその発覚を防ぐために、「罪」を犯す。
やがてその疑いは航空隊内の幸司郎に向けられるが、バレれば軍法会議にかけられ、銃殺刑だろう。
幸司郎は、脱走を決意する。
これは実話だ。
この小説で知られている程度で、有名な話ではない。
しかし、壮絶な逃亡生活に驚きを禁じ得ない。
海軍に憧れる、普通の20歳の青年であった幸司郎にその後待っている運命は、幸運と言えど壮絶である。
発覚を恐れる地獄のような日々、独房に入れられ正座で終わる日々、強制労働と何ら変わりのない飯場での日々・・・。
特別強くも聡明でもなかった幸司郎の心情の描写が素晴らしく、映画でも見ているような臨場感に溢れていた。
エキサイティングな1冊であった。
ぽ子のオススメ度 ★★★★★
「逃亡」 吉村昭
文春文庫