人間のクズ!

敵は自分の中にいる。ちょっとだけ抗ってみたくなった、ぽ子56歳。

逃亡 / 吉村昭

昭和18年。

第2次世界大戦の真っ只中、戦況は悪化しつつあった。

20歳の幸司郎は霞ヶ浦海軍航空隊に身を置いていたが、きつい訓練と体罰に疲弊していた。

そんな時に出会った「山田」と名乗る男は、若い幸司郎のたったひとつの心のよりどころになっていく。

優しく、頼り甲斐があり、父親のように自分を包み込んでくれる存在。

そんな山田のために、幸司郎は禁を犯す。

些細なことであったが、今度はその発覚を防ぐために、「罪」を犯す。

やがてその疑いは航空隊内の幸司郎に向けられるが、バレれば軍法会議にかけられ、銃殺刑だろう。

幸司郎は、脱走を決意する。

これは実話だ。

この小説で知られている程度で、有名な話ではない。

しかし、壮絶な逃亡生活に驚きを禁じ得ない。

海軍に憧れる、普通の20歳の青年であった幸司郎にその後待っている運命は、幸運と言えど壮絶である。

発覚を恐れる地獄のような日々、独房に入れられ正座で終わる日々、強制労働と何ら変わりのない飯場での日々・・・。

特別強くも聡明でもなかった幸司郎の心情の描写が素晴らしく、映画でも見ているような臨場感に溢れていた。

エキサイティングな1冊であった。

ぽ子のオススメ度 ★★★★★

「逃亡」 吉村昭

文春文庫