「マジでヤバい。大変な事になった。」
3日ぶりに帰って来た娘ぶー子は、深刻な顔で言った。
深夜のリビングである。ダンナは酔いつぶれて寝てしまった。
ぶー子の言う「マジでヤバい」という深刻な状況とは、天気の事であるEE:AE4E6
雨が降ると言うこと自体はこの日本において珍しい事でも大変な事でもないが、翌日の千葉県に雨が降る、という事がぶー子及びその周辺に、大変な事態をもたらしているのである。
大学の学園祭である。
ぶー子はもう中退していたが、ダンスサークルには残っていたので最後のイベントとして出演する事になっていた。
毎年この学園祭を最後に3年生が引退するので、このステージは大きな意味を持っていた。
この数ヶ月、大きく言うならこの2年半、この日のために頑張ってきたのである。
しかし野外ステージのため、雨が降れば中止になる。
「中止とかマジでないよEE:AE5B1OBが後夜祭の出演で代わってくれるって言うけど、10分・・・。」
予定では、全体で45分であった。
ぶー子らは昨夜、電柱を囲んでハラ~ヨレ~と唱えながら舞ったそうだが、それは雨乞いではないのかEE:AE4E6
私は数十年ぶりに、真剣にてるてる坊主を作って窓からぶら下げた。
後はもう、なるようにしかならぬ。
舞うが良い。唱えるが良い。
朝起きてみると、10時集合のぶー子が10時にでかけるところだった。
雨は辛うじて止んでいたが、いつ降り出してもおかしくないような空模様だ。
祈るような気持ちで私達も後に続いたが、2時に始まる頃には空は、もう漏れそうなのを涙チョチョ切らせて我慢している子供のようである。
しかし何とかギリギリ耐えてくれたEE:AEB64
ダンスサークルはジャンルごとにグループ分けしてあるのだが、最初にロック、次にぶー子のいるブレイク、何とかここまでは降らずにいてくれたのだ、辛抱強いお空のおりこうちゃん。
そもそもぶー子はヒップホップだったのだが、サークルに入る時にブレイクを選んだのだった。
ダンスの中でもアクロバティックで、体力的にも技術的にも難易度の高いジャンルである。
人数も少なく、全員男子。
しかしあえてそこに飛び込んだぶー子であった。
やはり去年おととしの学祭では、ひとり動きが小さく途中でバテてくるのが分かり、「女がひとり混じってる」というのが否応なく分かってしまう感じであった。
それが今年はずいぶん上達していて、なにより全員の動きがきれいに合っていて、このチームの団結力、努力を見たような気がして泣けた。
これで最後なのである。
次のグループの途中で雨は本格的に降り出したが、結局全員、最後まで踊った。
最後には引退する3年生だけで踊ったが、全ジャンルから集まったフリースタイルである、こちらも面白かった。
ぶっちゃけぶー子は、こっちの方が良かった気がする(笑)
やはり女だ、カチッとした直線的な動きよりもクネクネとした曲線の方が上手い。
気がつくと雨は小降りになっていた。
ステージの裏に行くと、ぶー子は泣いていた。
ぶー子はもうこの学校の人間ではないので、これが終われば大学生活も完全に終わる。
ダンスとも、仲間とも、お別れである。
ぶー子の胸のうちを思うと私も辛いが、ぶー子が選んだ道である。
大事なものをなくして腑抜けになりそうで怖いが、それ以上に手に入れたいものがあるのなら前を向きたまへ。
新しい章の始まりだEE:AE4F3