人間のクズ!

敵は自分の中にいる。ちょっとだけ抗ってみたくなった、ぽ子55歳。

始まりは、夜

私は冷めたクロックムッシュを頬張りながら、ひとりで大学に向かっていた。

10時30分。

娘ぶー子の出番まであと30分だ。

寝坊したために朝ご飯を食べられなかったのだが、今食べないと、ダンスが終わる12時過ぎになってしまう。

かといって食べ過ぎると模擬店の食い物が入らなくなるから、パン屋のパン1個で我慢したのである。

駅から5分ほど歩くと、大学に着く。

比較的新しい学校で、アメリカの学校を思わせるような広い敷地に、芝生の緑、空の青。

さすがぶー子が見た目で選んだ学校だけある。

帰りに写真を撮ろうと、あらかじめポイントを選びながら歩いていく。

4つのダンスのグループと、引退する3年生の踊りが終わると、もう帰りたい気持ちになっていた。

学園祭など、親が一人で来るものではない。

楽しみにしていた模擬店も、ひとりでは買うことすらためらわれる。

場違いだ。

変身前のシンデレラ状態である。

綺麗な場所なので、一駅ぐらい歩いて写真を撮ってくるつもりでいたのだが、カメラ2台とハードカバーの本1冊、文庫本1冊、お茶のペットボトルなどがまるで悪霊でも憑いたように肩を重くしていて、すっかり疲れてしまった。

模擬店も写真も用がないなら、帰るしかない。

駅に向かう。

そこで気がついたが、もう昼なのだ。

何か食べておかないと、夜の宴に影響が出てしまうじゃないか。

今夜は飲み会がある。

ただの飲みではない。

グルメ飲みである。

充分にお腹をすかせて挑みたいのである。

そのためには昼にキッチリ食べておかなくてはならない。

電車に乗ってしまえば下りるまで1時間半もかかってしまうのだ。

これがラストチャンスになるだろう。

私は駅前のレストランを見て回った。

せっかくだから何か旨いモンでも食ってやろうという魂胆だったが、困った事にそれほどお腹はすいていない。

メニューはどこも千円近いものが多く、無理して食べるには惜しい金額である。

レストランのメニューを全て見て回り、私は結論を出した。

パンでいい。

これなら軽く済ませられるし、実はさっき行った店で食べたかったパンがあるのだ。

また大学に向かうように駅前を歩く。

店に入るが、席は埋まりかかっていて、レジにも行列ができていた。

ダメだ、店を出て隣のコーヒーショップと戻ったところにもあるコーヒーショップも覗いたが、どこも同じような状態である。

パン全滅。

パン以上レストラン未満はないのか?

ある。

そば屋だ。

よくある「早い安い××い」系のそば屋が、改札近くにあった。

また駅まで向かう。

そば屋もそこそこ席は埋まっていたが、何とか座れそうではあった。

しかし店の前のメニューを見ていたら、どうしてもそばは食べたくなくなった。

違う、そばっ腹じゃないのだ。

そもそもそばは好かん。

なんでここに来てしまったのか。

しかしそのままずんずん駅に入ると、駅は駅ビルの中にあることが分かった。

駅ビルなら、食べるところがあるはずである。

レストラン街に行き、メニューを吟味する。

3周した。

3周目に、ずっと立っていた男性がおかしな顔をして私をじっと見た。

あんまり露骨に見るので、もしかしたらこの人なにか食べさせてくれるかもしれないと思ったほどだ。

しかしここにはないのである、求めるものが。

「高い遅い旨い」系であり、無理して食べるには惜しいのである。

あ、これ、さっき言ったじゃないか。

もう忘れていた。

結局レストラン街を出て、また駅の外である。

グルッと見渡すと、「おかわり自由!」のポスターが見えた。

何が自由??と近づいていくと、そこはパン屋でコーヒーのおかわりが自由なのであった。

席も充分に空いている。

これじゃないのか、私が求めたものは。

中に入る。

しかし、私は1軒目のパン屋で食べたかったパンがあり、どうしてもそれと比べてしまう。

アレに比べるとこれもダメ、これもイマイチ、なんで食べたくないものを食べなくちゃならないんだ?

私は店を出てしまった。

そして先ほどのパン屋にズンズン向かった。

外で食べよう。

駅前は公園のようになっていて、ベンチもある。

お腹もすいてないなら、1個で充分だ。

安くて脂肪にも優しい選択である。

さっきはなかった「パリパリピロシキ」というものが目に入った。

ピロシキもパリパリも大好きである。

迷わずこれをトレーに乗せた。

さっき食べたかったのはもうないのか??

最後の1個であった。

巨大なカルツォーネ。

ウッ、パリパリに揚がったピロシキに巨大なカルツォーネを、それほどすいてもいないお腹に入れるのか。

ダイエットどうしたEE:AEAC6

このところ、ゆっくりだが順調に体重を落としていたのだ。

何のために高くて旨いレストランを蹴ったのだ。

でも私はそもそもこのカルツォーネが食べたかったんじゃないか。

最後の1個である。

迷っていたら持っていかれてしまうかもしれない。

ええいEE:AE5B1

コーヒー止めて、お茶にすればいい。糖分フリーだ。

明らかにこれでもエネルギーの「入り」の方が多いが、もうトレーに乗せてしまったのだ。

後は食べる以外の選択肢はない。

青空の下でパンを2つ、緑茶で食べた。

和と洋の組み合わせの悪さよりも、一人の侘しさの方が堪える。

ダンナはギターのレッスン日と重なってしまい、来れなかったのだ。

家に帰るとテーブルに、空になったカップラーメンが置いてあった。

飲み会は夜である。

そこからを「今日」としよう。