人間のクズ!

敵は自分の中にいる。ちょっとだけ抗ってみたくなった、ぽ子55歳。

潮干狩りの巻

毎年恒例になりつつある、我が家の潮干狩りである。

「4時半起き、5時出発。」

ダンナが言い渡す。

とにかくダンナは出発が遅れると機嫌が悪くなり、運転がカーレース風味になるのでできれば守りたいが、前夜も1時過ぎまで飲んでいた。

「何とかなるさ」と楽観的になるのも、酔っている時の長所である。

しかし娘ぶー子は私が起きている間に帰って来もしなかった。

4時半には起きれまい。

私より足手まといがいるというのは、気持ちが楽である。

「オカンが起きてくれないと私が早起きした甲斐がないんだけどッ!!」

なんと目覚しはぶー子の怒りヴォイスであった。

時計を見ると5時10分前。

「10分で出ればいいんでしょっ!!」と私も起きるなり対戦モード。

そうだ。

5時に出れさえすれば、ぶー子の文句は筋違いになるのだ。

そん時ぁ見てろよ。

こういう反撃は私の大好きなジャンルなので、俄然頑張るぽ子である。

反撃のチャンスはなかったが、5時15分には出れたので、円満に出発。

毎度出発が遅れる原因になる私のBGM選びだが、昨日のうちに済ませておいた。

このところ同じMDばかり聴いていたので、大きく内容を一新して、MDケースとカセットケース(現役だ)を持ってきた。

久しぶりの遠出だ。たくさん聴ける。

私は、音楽が聴けるので、遠出や渋滞は苦にならないタチだ。

私の計画だと「追悼・清志郎大会」と称し序盤にRCを数本聴いたら、ダンナのためにもう何年も聴いていなかったポール・マッカートニーを、だんだん運転がダレて来た頃に、昔やっていたバンドの練習テープを聴くつもりであった。

2本目のRCで着いてしまった。

ハハハ、清志郎万歳。

7時に受付、8時に開場。

つまり、受付を済ますとアホほど時間が余るのだ。

私はこの「何もしないで待つ」という状態にムチャクチャ苦痛を感じるので、事前に分かっていれば本なりDSなりを準備するのだが、ここで時間が余るとは思いもしなかった。

手元にあるのはバケツと熊手である。

やってくる人たちをボケーッと眺めていたが、圧倒的に子連れである。

良く見ると、子供は、当たり前だが父親か母親に激似しているので、それが面白くて親子の顔を見比べて過ごした。

それに飽きると、全く服装や髪型に気を配っていない、いわゆる洒落っ気を投げた格好をしている人を探しては、ひとり心の中でウケていた。

8時に開場になると、ダンナとぶー子は「奥に行こう」とズンズン進んでいった。

私は小心者なので、足場の悪い場所を歩くのが苦手である。

少しずつ彼らと距離ができていったが、足元を見ると、お?アサリ発見。

もう何匹か砂の上に出ていたのだ。

掘りもしないのにこんなに出ているのだ。

ここにはいるぞ。

あさりがおわします。「おわす」という言い回しが好きなぽ子である。

私はダンナ達を追うのを止め、そこにしゃがみこんだ。

まずそこらに転がっている数匹を網に入れると、手で軽く砂を掻いた。

それだけでもウホウホ出てくるのだ。

こ。ここはっ、10年に一度あるかないかのあさりおわすではないのか?

熊手も使うとあっという間に網は一杯になった。

私はほんの数分でこんなに狩った自分が誇らしく、早速これを見せにダンナとぶー子の所に持って行った。

「ほら見て!」

ザザザーッとバケツに空けると「え?もうこんなに捕ったの?」と最初こそちょっと驚いたような顔をしたが、「ほんと、すごい捕れるよね。」と言った。

すごい捕れると言った割には、ダンナの網もぶー子も網もスカスカである。

それを見てますます自分の能力とあさりのおわします場所を瞬時に見抜いた判断力に酔いしれたが、良く見ていると、ダンナもぶー子も小さいあさりは惜しげもなくポンポン投げている。

「小さいの持って帰ってもしょうがないからね。」ダンナは言った。

ダンナの「すごい捕れる」というセリフには「だから大きいのを選んで捕っている」という言葉が省略されていた。

彼らは私よりももっと高度な事をしていたのだ。

私は・・・、私は子供のように、ただじゃんじゃん捕っただけである。

「こんな小さいのばっかりあっても仕方ないかぁ。」と無理に笑って言うと、ダンナは「そうだね・・・。」とだけ言った。

そうだね。

ぽ子のあさり捕獲能力が否定された瞬間である。

しかしさっきの入れ食いポイントまで戻れば、ここよりもたくさんのあさりがいるのだ。

という事は、ここよりもたくさんの大きいあさりがいるという事でもある。

私は入れ食いポイントのことは言わずにまた戻った。

今度こそ心から「凄い」と言わせてやる。

ぽ子の潮干狩りは、「凄い」と言わせるところにあるのだ。

しかしとうとう最後まで「凄い」と言わせることは出来なかった。

ぽ子は貧乏性なので、「小さいから」とあさりをはじく事ができないのだ。

結局ぽ子のチビあさりのせいでみんなの網も一杯になり、1時間もしないうちに切り上げる事になった。

次なる目的地はディズニー・シーである。

これも何となく毎度のセットになってしまった。

予定だと3時からのチケットで入るつもりだったのだが、まだ9時だ。

まぁ寝るにしても次に向かおう、という事でシーに向かう。正しくはスィ~。