人間のクズ!

敵は自分の中にいる。ちょっとだけ抗ってみたくなった、ぽ子55歳。

痛みをコントロールする

「僕は必死に我慢していたが、一週間もすると、この痛みをコントロールして半減する方法を見つけ出した。

その方法は、頭の中で「この手は俺のものではない。」と念じて、痛みの回路を閉ざしてしまうのだ。

すると右手の痛みは自分の苦しさではないと思えてきて、平穏な気持ちになれる。

正確に言えば、手の「痛み」は取れないが、痛みから生じる「ストレス」からは逃れられるから、辛さがない。」

太田哲也という元レーサーをご存知だろうか。

レース中の事故で車が炎上、全身大やけどを負い瀕死の重体から奇跡の生還を果たしたのだが、

これは、激しい痛みを伴う治療を繰り返していた彼の言葉である。

というわけで、またこの日がやってまいりました。

歯医者の日。

今も痛い治療をしているが、この後さらにすごいのが待っていると前回聞かされていた。

もしかしたらそれは今日かもしれないのだ。

ムチャクチャ気が重い。

冒頭の文章を頭に叩き入れ、私も痛みをコントロールしてやろう、そう決めた。

しかし、読んでの通りイメージがしにくい。

経験した者にしか分からないような表現である。

「これは私の歯ではない。」

本当にそんな風に思い込めるだろうか。

30分も早く着いてしまった。

助手の奥様は、私を認めるとニヤッと笑った。

「アレが来たか。」さしずめそんなところだろう。

しまった、ぬかった。

今日は月に一度の「歯磨きチェック」の日だった。

時間がないので適当に済ませて来てしまったのに。

かくして今日もいつもの歯磨きレクチャーを受けることとなる。

汚れを示す赤く残った薬を歯ブラシで落としていくのだが、先の治療が気になって集中できない。

気が着くと左手の鏡はダランと下がり、ボーッと手だけ動かしていた。

そんな姿を見て先生は

「明日はお休みなの?」

「晴れるかな~?」と気をそらせるように話しかけてきたが、まるで無駄であった。

「怖い」「逃げたい」それだけで頭がいっぱいである。

「乳幼児扱いだな、こりゃ(笑)1.5倍の手当てだよ。」そう言って先生は治療を始めようとした。

しかし私は何としても逃げたかった。

何とか麻酔をしてもらえないか。

金や時間ならどんなにかかってもいい、何とか痛くない方法はないか、と食らいついたが

「だんだん慣れてきてワガママ言うようになってきたぞ。」と笑って取り合ってくれなかった。

「ゆっくりいきましょうね。」

「痛かったらやめましょうね。」

毎回こう言い、

「これまでもずーーーっとそうしてましたよ。」

毎回こう言われ、ついに治療が始まるのであった。

今回も痛い、やめて、と大騒ぎだ。

また結局、次の段階へは進ませなかった。

太田氏の教えは?

それどころではない。すっかり忘れていた。