午前中に娘ぶー子の部屋に行ってみると、やはり机に向かってテキストを開いていた。
もうひっかかんねーよ。
ガバッと顔をこっちに向けさせると目がドロンとしている。テキストは真っ白だ。
「・・・あのねぇー。ちょっとは進んでるの!?」
半目のまま「こえれもちょっとあやったよ。」と答える。
「怒んないから正直に言ってみなッ!!」
「・・・れんれんやってない~・・・。」
くっそー、こんな初歩的な罠にずっとひっかかっていたのか。
私の方は、眠くなったのは月曜日だけで、後は全然元気だ。
やはり配達の仕事がないと体は楽なのだろう。
午後の仕事でも眠くなることはない。
今日は職場で「パートにも有給をくれることになったので、その説明」が午後にあると言っていた。
仕事の時間が減るぞ。楽しみだ。
行ってみるともうボチボチ事務所に集まり始めていた。
全員揃って15、6人ぐらいだろうか。
皆で丸くなって座り、その先にナントカ担当のスーツのパリッとした人がいる。
「それでは今回、就業規則の改定にあたって説明をしますナントカです。」
・・・思ったより堅いな。
サラッと有給の取り方を説明するだけだと思ってたんだけど。
就業規則の冊子が配られる。2人で1冊。
私はほとんど喋ったことのない山田くんと見ることになった。
なんかやりにくいな。
彼は冊子のページを開いて、無言のままちょっとこちらに向けた。
「え~、就業規則というものはですね、まず、法律というものがあって、その次に憲法・・・。」
まずい・・・。これは非常にまずい。これは100%つまらない話だ。
「・・・で、雇用契約となる訳です。」
周りを見ると頷いていたり、まじめに聞いていたり。
私がおかしいのか?皆が見栄っ張りなのか?
散々どうでもいい話をした後、「それではこれを読んでいきますので・・・。」などと言い出した。これとは就業規則の冊子だ。
はぁ!?
このつまんない話をひとしきり聞いてやったのに、まだ続きがあるのか?
しかも「読んでいきます」って、あんた、それはダメだよ、子守唄に・・・。
読み始めた。
しかも全部だ。
「パート、アルバイト、及び契約社員は・・・」このくだりも省略せずに、何度でも繰り返す。
始めのうちはバカバカしさの怒りで目も覚めていたが、やはりそのうち眠くなってきた。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
眠い・・・・・。
助けて・・・・。
その時、冊子を持っていた山田くんの手が動き、冊子が少し見づらくなった。
「?」
よく見ていると、山田くんの手から少しずつ力が抜けてきている。
こいつ・・・寝てるよ・・・。
こんな場所で信じらんないっ。
自分の事を棚に上げて呆れていた。
お陰で目が覚めた。
これまでも似たような場面で自分より先に寝てる人を見つけると
「私よりひどいのがいた」と感動して目が覚めた事が何度かある。
山田・・・がんばれ・・・起きるんじゃないぞ・・・。
こうして私は山田くんを楽しく観察して、睡魔から逃れることが出来た。
危ないところだった。
結局この朗読は、いらぬ丁寧な説明を交えながら1時間続いた。
積極的に質問していたあの人の睡眠時間はどんなもんなんだろう?
それともあれは彼女なりの眠気覚ましだったのだろうか?