人間のクズ!

敵は自分の中にいる。ちょっとだけ抗ってみたくなった、ぽ子55歳。

睡魔の誘惑

午前中に娘ぶー子の部屋に行ってみると、やはり机に向かってテキストを開いていた。

もうひっかかんねーよ。

ガバッと顔をこっちに向けさせると目がドロンとしている。テキストは真っ白だ。

「・・・あのねぇー。ちょっとは進んでるの!?」

半目のまま「こえれもちょっとあやったよ。」と答える。

「怒んないから正直に言ってみなッ!!」

「・・・れんれんやってない~・・・。」

くっそー、こんな初歩的な罠にずっとひっかかっていたのか。

私の方は、眠くなったのは月曜日だけで、後は全然元気だ。

やはり配達の仕事がないと体は楽なのだろう。

午後の仕事でも眠くなることはない。

今日は職場で「パートにも有給をくれることになったので、その説明」が午後にあると言っていた。

仕事の時間が減るぞ。楽しみだ。

行ってみるともうボチボチ事務所に集まり始めていた。

全員揃って15、6人ぐらいだろうか。

皆で丸くなって座り、その先にナントカ担当のスーツのパリッとした人がいる。

「それでは今回、就業規則の改定にあたって説明をしますナントカです。」

・・・思ったより堅いな。

サラッと有給の取り方を説明するだけだと思ってたんだけど。

就業規則の冊子が配られる。2人で1冊。

私はほとんど喋ったことのない山田くんと見ることになった。

なんかやりにくいな。

彼は冊子のページを開いて、無言のままちょっとこちらに向けた。

「え~、就業規則というものはですね、まず、法律というものがあって、その次に憲法・・・。」

まずい・・・。これは非常にまずい。これは100%つまらない話だ。

「・・・で、雇用契約となる訳です。」

周りを見ると頷いていたり、まじめに聞いていたり。

私がおかしいのか?皆が見栄っ張りなのか?

散々どうでもいい話をした後、「それではこれを読んでいきますので・・・。」などと言い出した。これとは就業規則の冊子だ。

はぁ!?

このつまんない話をひとしきり聞いてやったのに、まだ続きがあるのか?

しかも「読んでいきます」って、あんた、それはダメだよ、子守唄に・・・。

読み始めた。

しかも全部だ。

「パート、アルバイト、及び契約社員は・・・」このくだりも省略せずに、何度でも繰り返す。

始めのうちはバカバカしさの怒りで目も覚めていたが、やはりそのうち眠くなってきた。

・・・・・・・。

・・・・・・・。

眠い・・・・・。

助けて・・・・。

その時、冊子を持っていた山田くんの手が動き、冊子が少し見づらくなった。

「?」

よく見ていると、山田くんの手から少しずつ力が抜けてきている。

こいつ・・・寝てるよ・・・。

こんな場所で信じらんないっ。

自分の事を棚に上げて呆れていた。

お陰で目が覚めた。

これまでも似たような場面で自分より先に寝てる人を見つけると

「私よりひどいのがいた」と感動して目が覚めた事が何度かある。

山田・・・がんばれ・・・起きるんじゃないぞ・・・。

こうして私は山田くんを楽しく観察して、睡魔から逃れることが出来た。

危ないところだった。

結局この朗読は、いらぬ丁寧な説明を交えながら1時間続いた。

積極的に質問していたあの人の睡眠時間はどんなもんなんだろう?

それともあれは彼女なりの眠気覚ましだったのだろうか?