「ない。」
また、ないのだ。
ない、このシチュエーションのなんと多いことよ。その多くは、私がボーッとしていることに起因する。手の動きと脳内の思考が連動していないのである。そんな時の動きは、脳内に記録されることはない。
にも関わらず、とっさにダンナがどこかにやったんじゃないかと思ってしまうのだ。
私の身に覚えはない、ダンナがバツ悪そうに「ごめん、あったよ」と持って来てくれるのが一番のハッピーエンドなのである。そうあって欲しいという、希望的思考だ。
「知らない。」
こういう時のダンナは、いい加減冷たいものだ。
もう何度も繰り返されてきて、呆れているのである。
そしてどうせしょうもないところから出て来るので、まともに取り合ってくれない。
消えたモノによっては「そんなこと言ってないで、探し出してきてよスーパーマン」という気持ちになることもあるが、今回は玄関に置いておいたダスキン代の封筒だ。とりあえず他から出して、後でゆっくり探すことができる。
ザッとさがしただけで、後回しにした。
それにしても、おかしなものだ。
ダスキンの回収を忘れないようにと、目立つよう玄関の靴の手前に置いておいたのだ。何かの意思を持って動かさないと、消えようにない。
車に荷物を積み込む時に、ダンナが動かしたんじゃないか?
ハナっから私を疑っているのだ、自分を疑わないから出てこないんと違うんか?
そしてダンナは、また私がやらかしたと断定している。
いや、私もそんな気はしているが、これがダンナの落ち度だったら形勢逆転で嬉しいことこの上ない。
「あったよ。」と言ってダンナがそれを持ってくるのに、そんなに時間はかからなかった。
探して出てきたのではない。それは勝手に出てきたのだ。ダンナの寝室に落ちていたという。
ダンナの寝室だ。不覚にも勝利のファンファレーレが鳴りかかったが、ダンナの表情がおかしい。
ダンナの失態だったら、もっとバツの悪そうな顔をしていても良さそうなものである。
ダンナはニヤけていた。
「誰だと思う?」
誰?
私とダンナの他に誰が・・・、あ。
寂しがりで、ひとりに耐えられない子。
誰もいなくなると紙やビニールの類を「獲物」として捕らえ、「見て見て~EE:AEB30」と鳴くのである。
まるで誰かが褒めに来るのを待つように。
封筒には、エルがくわえて二つ折りになった跡があった。
それを見て私もニヤッとした。
誰のせいでもない。
最高のハッピーエンドである。