人間のクズ!

敵は自分の中にいる。ちょっとだけ抗ってみたくなった、ぽ子55歳。

失われた笑顔

ピンポン♪

インターフォンが鳴った。

静かな昼下がりの事であった。私はラルクをコピーしていた。

モニターを覗くと・・・、EE:AEB87

ディーラーの営業マンが立っていた。

「はいEE:AE4E5

私は極めて冷徹に答えた。ロクな話じゃないのだ。用があったらこちらから連絡する。用がないのに来るという事は、何らかの向こうの利益のための、私の不利益なのである。

「お車の調子はいかがですか?」

いつも最初はこれだ。調子が悪かったら連絡してるわい。便りなきは良き便りと思わんのか。

「どこにも問題ありませんEE:AE4E5

来い、なんか言うことあんでしょ、それが言いたいんでしょ、言いたくて言いたくてウズウズしてるんでしょ。いらんけどな、それ。

「今日はお車の保険の、」

「変える予定はありませんので、すみませんねー。」

「それでは、お話しだけでも少、」

「今手が離せないんで、すみませんー。」

以上だ。

後ろに上司らしき人を従えて、彼はノコノコと帰って行った。最短で済んで良かった。

しかし帰らせておいていうのも何だが、もし私だったら、その保険のパンフレットをポストに入れていく。

本気で売り込みたいなら、別に顔を合わせなくてもチャンスがあるなら生かすべきではないか。

まるで口頭で丸め込もうという魂胆だったような気がして、ますます印象が悪くなったのだ。

2週間ほど前には、生命保険の営業がうちに来た。

いつの頃からか、毎年訪問して契約内容を確認するということになったらしく、本当に煩わしくて仕方がなかった。

だからとことん逃げていたのだが、ついに捕まってしまったのだ。ダンナの会社にまで電話をかけて来た。

必要ならこちらから連絡するというのに、なぜ一年に一度も家に上げなくてはならないのか。

彼らの営業チャンスを増やすためではないか。

まぁ6年も逃げておいていうセリフでもないが、とにかくまた、対決の時がきてしまったのである。

そもそももう、子供も家を出て夫婦二人の生活だ、大きな死亡保障なんかいらないのである。解約してもいいと思っていたところだ。

彼らはきっと、新しい保険を勧めに来るだろう。

真逆の展開に度肝を抜くだろうか。

抜かなかった。

それでは、と死亡保障を小さくした保険、貯蓄型の保険、年金型の保険などその場で色々提案し、見積もりを出した。

しかしそのどれも、死亡保障に重きを置いていない立場にとっては負担でしかなかった。今となっては、私達のニーズに合っていないのである。

そして次には娘ぶー子用のプランを出し、外貨での保険の案内をし、車の保険の話にまでなり、私は心底ウンザリした。

聞く必要のない話を延々聞いているのだ。ボランティアである。

つまるところ、私達は客という名のカモでしかない。

ディーラーも保険も、私達にとってよりいいものを提案している、というつもりらしいが、私達はそれを必要としていないのだ。

一方的に現れ、一方的に勧め、向こうの利益にならないものには消極的である。

それが商売なのだろうが、ならばこっちにも守るものがある。時間と金だ。

歳を取ってふてぶてしくなったのか、最近は私もずいぶんキツくなったと思う。

しかしそうでもしないと、時間も金も、向こうの思うように流れて行ってしまうのである。

昔から私はこんなに不愛想だった訳ではない。

時が、そして営業らが、すっかり私をすれた女にしてしまった。

笑顔を返してくれよ。

保険は解約、車は乗りつぶす。

もう誰にも会いたくない。