買い物に出る。
家で書いてきたリストに従って、品物をカゴに入れていく。
八角。五香粉。
激安スーパーは、ちょっと珍しいものになると、置いていない事が多い。
仕方がない、ハシゴか。
2軒目も激安っちゃ激安、しかしその名も「業務スーパー」であり、ここは輸入食材に強い。
ここにあったら安く買えていいのだが。
なかった。
確かに輸入食材は多いのだが、スパイス類に弱いということが分かった。
しょうがないからこれは、「安くないスーパー」で観念しよう。
そのまま出るのももったいなかったので、ついでに安いめんつゆを買うことにした。
めんつゆ1個をカゴに入れてレジに向かうと、数人の行列になっていた。
大した数ではないが、ただ待つだけのレジ待ちには、ちょっとしたストレスを伴う。
「めんつゆ1個なのにな」と思いつつレジに向かうと、向かいからも男性がレジにゆっくり向かっているところであった。
男性・・・、というか、オヤジ・・・、でもない、オッサン、とも違う、なんと言うか、ちっちゃいじーさん、と言ってもそんな酷く歳はとっていなさそうな、うーん、田舎のじーさん、みたいな感じの人だ。
じーさんは、スッと並ぶと言うより、その辺の商品を手に取りながらゆっくり向かっていたので、私が先か、あんたが先か、微妙な感じであった。
その迷いは向こうも同じだったようで、結局私たちは前の人に人ひとり分ほど開けて、並んで待つことになってしまった。
私は意地悪ではない。
しかし、図々しいヤツには結構辛辣である。
こういう時、当然のように先に入ってくるようなじーさんであったら、恥ずかしながら私もちょっと張り合って早足で先に入ったかもしれない。
しかしこの並びは、じーさんが図々しい人間でないことを表している。
前の人が一歩進んだとき、私は「どうぞ」と言って手を差し出した。
その時。
そこで初めて見たじーさんの顔は本当に田舎のじーさんのように浅黒くしわくちゃで、そのしわくちゃな顔をいっそうしわくちゃにして、「ありがとう」と言って笑ったのだ。前歯はなかった。
小さなじーさんだったが、肉体労働をしていることがすぐに分かる格好であった。
汚れた手で「ストロング」と書かれたサワーの缶を3本レジに置き、私のためにそれを丁寧に端に寄せた。
じーさんは3本のストロング缶を買うと、レジを去るときにもう一度私に「ありがとう」と言って行った。
歯の抜けた、しわくちゃな笑顔で。
笑顔の効能。
最近ちょっと参っていて、人のこういう善意とか優しさみたいなものに敏感になっていたのか、「嬉しい」というよりも、なぜか悲しくなってしまった。
じーさんについて行って、一緒に飲みたくなった。
私の笑顔が、誰かを癒せますよう。
そんな気持ちになった。