人間のクズ!

敵は自分の中にいる。ちょっとだけ抗ってみたくなった、ぽ子56歳。

新秋津までの修行

玄関を出て私と娘ぶー子は、しばらくつっ立っていた。

どんよりと曇った空からは、ポツポツと小雨が降っている。

「どうしようか・・・。」

バスだと帰りの時間が縛られるし、待ち合わせたダンナとも別々に帰ることになる。

しかし自転車で行くなら、傘をさしながらこぐことになる。

雨は小雨だ。

「これなら行けるんでね?」

ぶー子が一歩前に出る。

確かにまだ小雨であり、これなら傘なしでもギリギリ行けそうである。

私は傘をさしながら自転車をこぐ事が苦手である。

なので普段はカッパを着ているが、これからショッピングに行くのにここまでめかし込んでカッパはないだろう。

私は濡れる方を選んだ。

ぶー子は慣れているので普通に傘をさして前を行ったが、やがて雨は強くなり、私にも傘が必要な状態になってしまった。

私が傘をさしながら自転車に乗れない理由は、片手運転が怖いからである。

片手運転そのものは問題ないのだが、傘で手が塞がっているという事は、何かあったときにその手は使えないという事である。

その恐怖で余計に運転が不安定になる。

不幸にも傘しかない雨の日の運転という事態も時々あるが、そんな時のための方法がある。

傘の中心の棒の部分を首をかしげるようにして左肩と挟み、柄のU字の部分は左手の親指に引っ掛ける。

こうすれば両手はハンドルを離さずに、傘は風の抵抗を受け止めることが出きるのである、限界はあるが。

私はその方法をとろうと思って傘を広げたが、それは折り畳み傘であった。

中心の棒は短く、柄はU字になっていない。

首と肩だけでは傘は固定されず、短い柄は左手まで届かないのだ。

濡れるには勇気がいるほどの降りになってきたが、困った事になった。

そこで柄の先を見ると、フックに掛けられるように輪っかがついている。

結構大きな輪だったので、伸ばしてみたら親指に引っ掛けることができた。

しかし短い事には変わりないので、不自然に前かがみである。

ぶー子は爆笑した。

笑え。

安全第一だ。

私は真剣である。

この方法の欠点は、傘の角度が斜めになるために、前からの雨に弱いという事である。

しかし自転車をこぐとなるとおのずと雨は前からこっちに向かってくる事になるので、あまり雨は防げないのだ。

まぁドタマと肩ぐらいは守れる程度である。

昨日は台風が本州をかすめていったようだが、東京にも結構強い風が吹いていた。

雨は私に向かって降り注ぎ、セットした髪は魔女か妖怪のように舞い上がった。

穿き慣れないスカートは膝までたくし上がっていたが、どうにもできはしない。

橋の手前からは上り坂。

何でこんな修行みたいなことに・・・(泣)

新秋津の駅に着く頃には、身も心もズタボロであった。

午後1時30分。

ここから8時間に及ぶショッピングが始まるのである。