人間のクズ!

敵は自分の中にいる。ちょっとだけ抗ってみたくなった、ぽ子55歳。

記念日、Pにて

最悪、寝ているだろう。

昨日は結婚記念日だったが、ダンナは夜勤明けで休みであった。

しかし娘ぶー子と「けんちゃん」、つまりカレーとサラダとライスが食べ放題でスープが飲み放題でドリンクバーのチケットが常にあるステーキ・ハンバーグレストランに行くと言っていたので、超満腹か、最悪そのせいで寝ているか、と踏んでいたのだ。

私が仕事から戻ると、最悪のパターンであった。

彼は昼寝も本寝と同じぐらい、爆睡する。

今夜の予定は流れたか・・・と半分諦めて自転車のタイヤに空気を入れていたら、どうやらその間に電話がかかってきたようで、彼は生還した。

おうっ、記念日ディナーも生還だ。

久米川駅前の洒落た焼き鳥屋で、私は遠慮なく好きなものを頼んで食べた。

「どうせお腹一杯で入らないんでしょ」と嫌味を言ってやったので、ダンナも何食わぬ顔をしてパクパク食べた。

ビールを飲み、サワーを飲み、焼酎を飲み、酔いが回ると私は新たなる提案をした。

「P、行きたい♪」

「P!?」

Pとは時々行く音楽バーで、もれなく泥酔して帰る店である。

なので平日に行った事はないのだが、記念日ハイである。

ダンナが帰ると言ったら必ずその時に帰る、と役に立たない約束をし、私たちは平日のPへ向かった。

果たして先客は、ブルースマンひとりであった。

娘が試験勉強をするので追い出された、と笑いながら、彼はワイルドターキーをロックで飲んでいた。

ワイルドターキーのロック。

私もそんな物を飲めるようになってみたいもんだ。

ダンナと芋焼酎で乾杯。

雨とサッカーは客足を遠のかせる、とマスターは言っていたが、静かな夜であった。

ところが後からリキ兄とここのスタッフのまこっちゃんが泥酔して現れたので、空気が変わった。

私はこれまでここで、自分より酔っている人間を見たことがなかった。

それは酔客がいないという意味ではなく、常に私が信じられない程酔っているからなのだが、昨日のMAXは彼らふたりであった。

単に私がまだそれ程飲んでいなかったからでもあるが、自分より酔っている人間を見るのは、新鮮で面白かった。

まずリキ兄は、「賭けをしましょう。3万円です。」と言って110円をテーブルに出した。

「勝ったら3万円ってこと??」と聞くと、「俺が勝ったら千円。」とだけ言った。

「じゃあ何を賭けようか?」とさらに聞くと、彼は外国人のようにジェスチャーで「さあ」と言ったポーズをとり、この話は終わる。

このやりとりはこの後3回ほど、繰り返された。

まこっちゃんはどうやら具合が悪くて仕事を休んだ後だったらしく、誰も責めてないのに可哀相なぐらいに謝っていた。

なので、マスターが流れを変えるかのように、みんなをステージに誘った。

さすがブルースマンはサッとステージに上がり、ギターを手にする。

私とダンナは「いやぁ、そんな。」と日本人らしい面倒な遠慮をしてから後に続いた。

そしてまこっちゃんはギターを手にしたので、マスターがドラムの席に収まった。

お~、マスターのドラム、初めてである。

店に入った時にたまたま叩いていたのをチラッと見たことはあるが、そんな時彼は、まるでシャイな野生動物のようにササッと演奏を止めて引っ込んでしまうのである。

ベースがダンナ、私はピアノ。おっ、高田みづえ。

面白い配役だ。

ここでの演奏は、大きく分けて2種類に分けられる。

「この曲やろう」と言ったように決まった曲を弾くか、「スリーコード」と言ってアドリブで延々と自由に弾くブルースか。

私はアドリブができないのでこのスリーコードにはほとんど参加した事がなかったが、まぁ適当に合わせるぐらいならやってみようと思ったのだ。

なんていうと「実は上手そうな人」みたいだが、本当に決まったコードしか弾けない。

それでもおもちゃを与えられた子供のように、私は楽しく延々と同じコードを繰り返し弾いた。

次にはダンナがベースを手放したので、調子に乗って今度はベースで参加した。

後で分かったのだが、私だけが半音狂って弾いていたらしい。

まぁそんなもんである。

客が少なくて良かった。

やがてみんな帰って行ったが、まこっちゃんが相当酔っていたのでマスターは心配して「タクシーで帰れよ!」と何度も繰り返し言っていた。

ところが私たちもそろそろ・・・と席を立ったところで、まるで捨てられた犬が飼い主のもとに戻るように彼は帰ってきた。

彼自身も良く分かってないようで、私達が店を出ると彼も「じゃあ」と店に入りもせず、歩き出した。

心配なのでタクシー乗り場まで一緒に行ったのだが、タクシーに乗る寸前で恐らく心配しているリキ兄から電話がかかってきたようで、喋りながらまた夜の街へと消えていった。

「マスターに話がある」と言っていたが、なぜここまで来て今??という感じが可笑しかった。

まぁ酔っぽ子にも身に覚えがあるような行動である。

彼はちゃんと家に帰れただろうか。

シメにラーメンをしっかり食べたのが良かったのか、二日酔いはなかった。

なかったが起きれなかった。

仕事に行っても眠くて仕方がなく、家に帰ったら寝てしまった。

腕と指が痛い。まさかの筋肉痛である。

今回もやはり思う。

「練習しよう。」

ベースもピアノもサボりっぱなしである。