その変化はある日突然、訪れた。
嫌な1ヶ月の始まりであった。
4月の終わりの休日、私は出先でフリーマーケットを見つけ、そこで娘ぶー子の通学に良さそうなバッグを見つけたのだ。
結構好みにうるさいので、勝手に買うのはリスクが高い。
そこでそのバッグの写メを撮って「このバッグ、どう?」と送ってみた。
千円で安かったのだ。しかも新品。
しかし返事は来なかった。
まぁタイミングが悪かったのだろう。
このバッグとは縁がなかったのだ。
深いことは考えずに家に帰った。
その晩ぶー子が家に帰ってきたのは12時過ぎであった。
大学生になり門限を12時に延長してやったが、それにしてもバッグのメールには返事をよこさずに、12時ギリギリにいきなり「ちょっと遅れる」とだけメールが来たのだ。
この日を境にぶー子の帰宅時間はどんどん遅くなり、連日1時半頃に帰ってくるようになった。
おかしな事に、ある時間内はまったく連絡が取れない。
毎日変な言い訳をしては平気で門限を破るので私は毎晩イライラし、とにかく門限を守れ、守れないなら門限の前に連絡をし、どこにいていつ帰るのかを言え、と何度も何度も言った。
それでもぶー子はその場ではウンウンと言うだけで、全く効果がなかった。
一体ぶー子は何をしているのか?
毎度「今日はダンスの練習をしてた」とか、「高校の時の友達の家にいて、寝てしまった」などどもっともらしく言うが、正直私には信じられなかった。
どんな事情があっても、毎日まったく連絡が取れないというのはおかしい。
12時を過ぎるまではこっちがいくらメールしても、一切返事が来ない。
ところがいつも12時を過ぎるとすぐにメールが届き始める。
そして毎回「ごめん、今日もちょっと遅れる」である。
判を押したように12時過ぎに「遅れる」、1時前後に「今出る」とメールが一方的に届き、1時半頃に帰ってくる。
彼女のメールには「どこで」や「いつ」「誰と」という具体的な言葉がまるで入っていない。
「遅れる」「まだかかる」「今出た」、そればかりである。
そのたび私はメールで怒る。
怒るが返事より早くぶー子が帰ってくるのだ。
おかしい。何かを隠している。
ダンスの練習と言って出かけても、着替えや靴は持っていかない。
飲み会だったと言ってもまるで飲んだ気配がない。
私は何とかボロを出さないかとカマをかけたりしたが、いかんせん彼女は1時半に帰って来てから風呂に入り、翌日には学校があるのだ。
充分な会話を持つ時間もないし、怒ってばかりいるのでいつも雰囲気は悪かった。
私は色々推測した。
全く連絡を取れない時間があるという事は、拘束されている時間帯があるという事ではないか?
何か仕事をしている?
ならなぜ隠すのか?
後ろめたい仕事なのか?
確かに時間が遅すぎる。
そういえば友達が風俗で働き始めたと言っていた。
とうとうある晩私は、思ったままを聞いてみた。
この頃おかしい、バイトでもしてるのかと。
返事はNOで、今は新しい友達ができたところで、そっちで精一杯だ、携帯なんかはバッグに入れて誰にも返事をする余裕がない、と言った。
そう言われてしまえばそうなのかもしれない。
何もかもがグレーゾーンで確信を持つ決め手がないが、疑ったらキリがないのだ。
しかし信じようと思う気持ちと疑う気持ちが錯綜し、いつもぶー子の行動やメールを思い返しては自分なりの推測を立てていた。
白か、黒か。
いずれにしろ黒ならいつかボロが出るはずである。
推測だけでは口を割らせることは出来ない。
嘘をついている人間をいくら問い詰めても、嘘しか言わないのだ。
辛抱して泳がせる事にした。
すっかり会話が減ってしまった。
これまでは一日の出来事をいつもおもしろ可笑しく何でも話してくれたのに、なぜ口をつぐむのか。
もうぶー子は大人の階段を上っているのだ。
こうして距離ができ、親離れをしていくのかもしれない。
そう自分に言い聞かせて私は辛抱した。
そしてついに、尻尾を出す時が来た。
<つづく>
*********次回予告*********
<2>真相
「それってもしかしてオヤジじゃないでしょうね(汗)!?」
「・・・まぁオヤジっていうか・・・。」
ついに尻尾をつかんだ母・ぽ子。
この尻尾を離したら次のチャンスはまた遠くなる。
ついにぶー子に斬り込む時が来た。
さて、真相や、いかに?