いい加減、グータラぽ子ですら平日が懐かしくなっていた。
朝起きるのは辛かったけど、やっと真っ当な世界に戻る事ができてホッとしている自分がいる。
あぁ、もう今日から飲まなくてもいいんだね、ママ(泣)
とはいえ、9日間もダラダラ暮らしてしまった家の中は大変な事になっていた。
寝坊もしたし、家の中はあまり昨日と変わりはない。
しかし大きな違いは「やる気」である。
恐らく年に1度のやる気である。
明日から見てろ、と言いたい。
午後からの仕事も今日からである。
それすら楽しみであった。
会社に着くと午前から出勤しているパートさんが、「ぽ子さん、今日は午後から朝礼よ。」と教えてくれた。
社長と課長が午前中外出していたので、朝礼が午後になったとの事だ。
私はこの会社に勤めて3年だか3年目だかになるが、実は一度も朝礼に出た事がない。
その理由は私の出勤が午後からだからなのだが、これまでこういった事がなかったのが不思議なくらいだ。
「突然何か指名されたりする事ってあるんですか?」
ボケーッと聞いてるだけでも笑ってしまいそうで辛いのだ。それ以上の面倒は御免である。
「『職場の教養』の感想を4人言うけど、これは前もって決まってるから大丈夫よ。」
「職場の教養」とは、毎月どこぞから出版されている冊子である。
私には朝礼で感想を言うという使命がないので、これまで気まぐれに2回ほど読んだ事があるだけだ。
・・・と言うか、感想を言う時以外に読んでる人、いるのか?
1時になると、他の部署からも続々と人が集まってきて、当たり前のように丸く輪になった。
私は同じ部署の仲間に挟まれるように立ったが、その正面にお局様が立っていた。
そしてあろう事か彼女は、
「あら!?今日はぽ子さんがいるの!?じゃあ『職場の教養』はぜひぽ子さんにやってもらいましょう!!」と言い出したのだ。
私も一応、社会人のハシクレだ。
やれと言うならやるが、これはあまりに突然過ぎる。
「ちょっ、まっ、こんなの全然読んでないから、今からこれ読んで感想考えて言うって事・・・、」と言いかけると、私の隣にいたパートリーダーが「いえいえ、いつもちゃんと読んでるじゃないのッ!!」と慌てて私の言葉をかき消した。
そうだった、これはきちんと全部読んでいる事になってるのだ。
ふえ~~~、これは大変な事になった。
だいたいいきなり感想をと言われても、どの程度の事を言ったらいいのか、他の人のを聞いた事がない私にはわからない。
「じゃあ今日はあなたとあなたと次にあなた、で、ぽ子さんね。」
4番目か。
私の前の3人の感想を聞きつつ「職場の教養」を読み、自分の感想を考えなくてはならない。
そんな事、できるのか??昨日まで食って寝て飲んで暮らしていたのに・・・。
「職場の教養」は、日記のように毎日「気づいた事」や「反省したこと」などを載せている。
例えばある日のタイトルは「毎日がスタートである」で、まぁ常に初心に返って行動しようというような事が書かれている。
感想を言いやすいものを探している暇はない。
パラパラとページをめくって目に入って来た、「生活管理をしっかりしよう」というような所に食いついた。
簡単に言うと、ご飯をしっかり食べて乱れた生活をしないように自己管理しよう、と言う、誰でも知っててやらない事である。
年も明けて気持ちも新たに、しっかり自己管理をしていきたいと思います、と言うような事をもっともらしく言っておいた。
他の3人の感想が選挙の演説なら、私のそれはジミー大西の面接程度である。
情けないが、終わったという事だけで嬉しい。
朝礼の最後には「それではいきます。」と、全員が壁に掲げられている目標を右手を伸ばして指差し、左手は腰にあてて、声を揃えて読んだ。
そして最後に一歩、片足を前に踏み出す。
冗談だと思っていたが、本当にこんな事をやっていたのだ。
もう二度と私に朝礼がない事を祈る。
笑わない自信がない。