人間のクズ!

敵は自分の中にいる。ちょっとだけ抗ってみたくなった、ぽ子55歳。

豊尿期

自分の体の変調には敏感である。

それはマイナス思考から来ているのだが。

こんな性格なので、胃が痛ければ胃ガンじゃないか、咳が酷くなれば結核じゃないかと本気で心配する。

そのたびにパソコンにかじりつき、自分の症状から様々な病気を検索し、より悪いものを見つけては自分の状態と比較して安心材料を探す。

これにより私は何度も重病になった。

本当に重病だった試しはないが。

今回の異変に気付いたのはおとといであった。

喉が異常に渇いていた。

飲んでも飲んでも乾きは癒されない。

味の濃いものを食べた後など、喉が渇くことは良くあるが、心当りがない。

そういえばトイレにも良く行ったな。

多飲多尿。

こんな言葉もネットで知ったのだが。

た、大変だ、多飲多尿だ!!死ぬかもしれない。

私はパソコンが立ち上がるのを待ちながら、最近の自分の状態を思い起こしてさらに恐ろしくなった。

そういえば今週になってから、確かに体調が悪い。

だるい、頭がボーッとしてクラクラする。

気持ち悪い。

横になっていたい。

それぞれ単独なら気にもしないが、気がついたらこんなに揃っていた。

手遅れでなければいいが。

調べた結果、糖尿病の症状に酷似していた。

あり得ない話ではない。

毎年受けている検診の結果では、血糖値はギリギリ正常値なのだ。いつオーバーしてもおかしくない、後がない状態であった。

暴飲暴食、片寄った食生活、運動不足。

私は乱れた生活を心から悔いた。

もっと食べたいものもあるし、お酒だって飲み足りない。

それも糖尿病になってしまって、ここまでになってしまうのか。

今日になっても具合は良くなかった。

週末にはまた飽食パラダイスが待ち受けているだろうから、病気なら早いところ結果を知りたい。

意を決して仕事を早退し、病院へ行くことにした。

しかしここで、私は「内科」というところに、もうずいぶん行ってない事に気がついた。

どこに行ったらいいんだろう?

引っ越してしまって全然わからない。

職場の奥様方は、こういった情報を本当に良く知っている。

正直、普段は話が合わずにひどく気を使うが、こんな時はありがたい。

エロ先生のいる要注意の病院まで教えてもらった。

ちなみに腕はいいらしいので、男性ならオススメだそうだ(笑)

一番近い病院は、やはり腕はいいのだが言葉が悪いと言った。

何か質問をしたら「だからそれはさっき言ったと思うけど、」と言うように、言い方がカチンとくる事があるらしい。

「ウチのダンナは毎回行って『もう二度と行かない』って帰ってくるのよ。」

そんなところは私もゴメンだ。

私は気が小さいのだ。

しかし他の候補は、家に帰って調べてみると休みであった。

遠くまで行く気力はないので、修行のつもりでその恐ろしい先生のいる病院へ向かった。

3時間待ちである。

口は悪いが腕はいいという話は本当なのだろう。

私は受付嬢にすすめられて、一度家に帰って出直す事にした。

診察室に入る前に、オシッコを取って来てくださいと言われた。

まかせとけッ、今はオシッコ豊作期である。

恐らく糖をタップリ含んだ尿がタップリ出るだろう。

「はじめまして!!」

天気予報士のような真面目そうなその先生は、意外な挨拶をした。

大きな声である。

「ワタシね、ぽ子さんの事は何にも知らないから、まずは色々とお話を聞かせてもらおうと思いますね。ちょっと突っ込んだ話も聞く事になるかもしれないけどね!」

・・・元気である。

確かに独特のペースでこの大声、口を挟む隙のなさなどから「口が悪い」などという言われ方はされてしまうかもしれない。

しかし、私は全く不快感はなかった。

そこで尿検査の結果が来た。

「・・・でお話を聞いてると糖尿病かなと思ったんだけど、この結果だとそういったものは何も出てないね。」

え?違うの?

私はすっかりおそのお墨付きをもらいに来たつもりになってたんだけど。

「何か薬飲んでる?」

「何か変わった事とかなかった?」

「熱は?」

聞けば聞くほど先生は「う~ん。」と考え込んでしまい、「これは血液検査でもしないと、もっと詳しいことはわからないなぁ。」と言った。

ごもっともである。

だるい、ボーっとする、頭が重い、なんていう症状などどこにでも転がっている。

って言うか二日酔いじゃないか、まるで。

こうなるとだんだん恥ずかしくなってきた。

ただちょっと疲れてたとか、風邪の引き終わりだったとか、そんなオチだったらどうしよう。

血液検査なんて・・・。

もしそれで何も悪いところがなかったら、この元気な真面目な先生はますます頭を抱えて、答えが出るまで永久に試行錯誤するかもしれない。

こんな流れになった途端に、私の病気は心の中で糖尿病から単なる暴飲暴食の疲れに変化した。

何だか一晩寝れば治りそうな気がしてきた。

「明日、できれば明日がいいです。」

先生は断固としていった。

「えっと、明日は仕事があるし、急なので行ってみないとどうなるか・・・。」

「みなさんね、仕事仕事といいますが、体あっての仕事なんですよ!もうちょっとその辺を考えてみた方がいいと思いますよ。」

あぁこれか・・・。奥様の言ってた「口の悪さ」とは。

しかし私は不快ではなかった。

全くもって先生の言う通りなのだ。

むしろこういうことをきちんと言ってくれて、信頼度が上がったぐらいである。

時間もしっかりとって、じっくり考えてくれた。

仕方ない、病院には予約を入れた。

職場にはひたすら謝るしかない。

しかし、血液検査の結果がシロだった場合を考えると気が思い。

行くかどうかは明日の体調次第で決めようと思う。