「やっべ、プーチンがイケメンに見えてきた!!」
夜のニュースを見ながら、娘ぶー子はイスにふんぞり返っている。
夏休みである。
相変わらず昼までタップリ寝て、夜は元気だ。
「ハゲとイケメンのはざま、っつーか(笑)」
能天気である。
確かぶー子は文化祭のバンドを掛け持ちしてしまい、大変な事になっていたはずだ。
期末試験中に練習が入ったとか何とか言って、初心者のぶー子はキレていたのだ。
あの時は見かねて手助けをしたが、なぜこんなにのんびりしているのだろう?
確か、譜面がないから音を拾って欲しいと言ってた曲がもう1曲あったはずだが。
しかし、やはり。
「今日中に3曲!!今夜は徹夜だ(泣)」と言い出したのは昨日の夜だ。
熱があって具合が悪いと言っていたが、もう自業自得である。
眠気覚ましの薬を飲んで部屋にこもったぶー子をそのままにして、私は酒を飲んで寝たのであった。
朝起きてみると、本当に徹夜したらしいぶー子が起きてウロウロしていた。
朝ご飯を食べると少しだけ寝て、その後はボンボンとベースの音が聞こえてきたのでどうやら本気で練習しているようだ。
しかし、しばらくするとリビングに下りて来て、「タダで楽譜見れるサイトはないか」と騒ぎ出した。
やはりあの1曲が残っていたのだ。
楽譜がないから耳コピしてくれと言っていた曲が。
しばらくパソコンにはりついて検索していたが、そんな都合の良いサイトなどない。
あっても前日まで練習しないようなグータラ娘には見つけられないようになっているのだッ。
「おかーさん!!もう時間がないから、お金払って買っていい??あったんだけど、あの曲。」
しょうがないねぇ、後で金払ってよ。
ガガガーッ、ガガガーッと印刷する音が響く。
「うおっ、すげー勢いだよこれ!!入るのも出てくるのも!!」
紙を出し入れする度に盛り上がっている。
楽譜を手に入れて、もう余裕こき始めているぶー子である。
「ほいじゃ。」と言って、印刷したばかりの紙を手に、ぶー子は音楽室に再び戻って行った。
昼には練習に集まると言っていたが、大丈夫だろうか。
ところが携帯を持ってリビングに下りて来るまで、30分も経たなかった。
「どうした??」と聞くと、
「あー、もうここまでやれば適当に何とかなるっしょ。」そう言って昼ご飯を食べ出した。
「いやぁ、土壇場で出す力がハンパないんだって、アタシは。」
違う。
土壇場にならないと力を出さないのだ、アンタは。
しかもその力はMAXではなく、ほどほどである。
しかし私もバンドをやっていたが、実はそっくりであった。
練習に取り掛かるのはぶー子より全然早いが、何となく弾けてしまうと満足してしまい、結局中途半端な状態のまま本番になってしまうのだ。
そういえば楽譜代をもらってないぞ。
そんなところも私にそっくりであった。